惚れさせ上手のあなたの癖に
韓国は小さな絶望とともに天を仰いだ。
(また、フラレたんだぜ…)
心の中は哀号の大合唱である。これで何度目なのかなどは考えない。意味がない。
深い悲しみにころげ回りたい衝動に駆られたが、しかしながら恋愛ごとには多少読めた空気に従って大人しく立ち尽くした。だって、夕暮れの教室に二人っきり、である。何もしなくてもいい空気がながれるのだ。わざわざぶち壊す愚はさすがに冒さなかった。
例え今まさに玉砕したところでも。
ゆっくりと視線を床に落とす。長く延びたビラブドの影の肩や首の辺りを眺めながら、韓国は強く拳を握った。
(これで、諦めるんだぜ)
そう、これで何度袖にされたのかなどはもう意味がない。これで最後、と背水の陣で挑み、そして破れたのだから。
(いいんだぜ、もういいんだぜ。諦めてやるんだぜ。
大体ビラブドよりも可愛い女も綺麗な女も腐るほどいるんだぜ。ビラブドなんかそこらの男より力強くて女らしくないし、俺より頭よくてムカつくし、すぐに説教してくるし、ロクな女じゃないんだぜ)
ぐるぐるとビラブドの悪い点ばかりを脳内に挙げつらねていく。
すると段々なにか落ち着いてくる。ああ、これが諦めるということなのか。
(――何度もあんなに頼んだのにおっぱい触らせてくれないし。っていうか、ビラブドおっぱい全然ないんだぜ……)
ふと、あの衝撃の水泳の初授業を思い出した。
好きな子の水着姿が見られると、ある意味とても健全にドキドキソワソワウキウキしていたあの日、目にしたビラブドのその姿は韓国の妄想を粉々に打ち砕いた。
メイド・イン・ジャパンなエロゲにドップリハマった韓国は、貧乳に萌える自信はある。
しかし、どう差し引いてみてもイギリスを軽く抜いてフィンランド並の厚さの胸板には萌えられなかった。
あのときのあんまりさったらない。思い出せば思い出すほどあんまりだ。
(あ、なんかもう本気でどうでもよくなってきたんだぜ…
もう、諦められたんだぜ)
とてつもなくしょっぱい気分で韓国はようやくふっきった気分になった。
(よし、これでいいんだぜ。今日から俺は生まれ変わるんだぜ。『僕の、世界の中心は、君だ』ってぐらい可愛い彼女作って今までの分まで青春おうかするんだぜ!)
勢いこんで顔を上げる、韓国の胸には、もう未練などなかったのに。
夕陽の照らす中、背筋をまっすぐに伸ばしたビラブドがどこか切なげに笑って、韓国は目を奪われる。
「アンタも馬鹿ね」
なんてことを、自嘲まじりに、優しい声でいうものだから。
(や、ば)
韓国は思わず胸を押さえる。未練なんか綺麗になくなったはずのそこは、また熱い鼓動を刻み出していた。
(ずるいんだぜ)
枯れたはずの花がまた勢いよく芽生え、育っていく。
途方に暮れて韓国は、それでもビラブドから目を逸らせなかった。
惚れさせ上手なあなたの癖に 諦めさせるの下手な方
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最近韓国が可愛くてしゃーない葉月です。
なんなんでしょうね愛いやつめ。
2008/10/15
(2010/01/02モバイル公開)
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