ピーピングトム
夏である。暑い。よってプールである。プールといえば水着である。
「おお絶景かな絶景かな。お前もそう思うだろ、フランシス」
「全く同感だねビラブド君」
こころを熱く通わせる二人がいるのはワイワイキャッキャと楽しげな声の飛び交うプールサイド――ではない。
直射日光ギンギラギンに照り付ける屋上、フェンス近くの日向に寝そべる二人の手には双眼鏡。
早い話が、覗きである。
「暑くないのか、お前ら」
呆れ返ったギルベルトは実はこの中で一番暑さに弱い。日陰に引っ込んで大人しくビラブドお手製のスイートポテトをつついている。
「おいクソヒゲ、俺の双眼鏡割ったら殺すからな。あと十分で交替だぞ」
「わかってるわかってる。いいからお前はお兄さんの愛のこもらないマカロンでも食べて大人しくしてなさい」
横柄な口を利きながらソワソワとプールの方を見たり見なかったりしているのはアーサーだ。その腕にはフランシスがレンタル代に払ったお菓子の山が抱えられている。
適当にアーサーをあしらいフランシスはしまりのない顔でプールを凝視した。
「ナターリヤちゃん素晴らしいよナターリヤちゃん。お姉さんも大迫力だったけどハアハア……トレビアン！」
「あー、ルーイやっぱいい体してんなー。くっそう、どうして俺はあと一年遅く生まれなかったんだ。むしゃぶりつきてー」
「ビラブド、頼む、頼むからうちの弟をそんな目で見ないでやってくれ……せめて俺の前じゃ心に閉まっててくれ……」
暑さのせいだけではなくギルベルトはぐったりと項垂れた。
「だって無茶苦茶いい体なんだぞ！ あの体……全身いい筋肉だけどやっぱりあの脹ら脛らへんが一番見応えあるな、普段制服のスラックスで隠れてるのが惜しいぐらいだ。いや、勿論スラックスもいいよ。階段上る時とかにギュって緊張して膨張してぴっちりと浮かぶラインとかもう堪んないしあとあの盛り上がった大胸筋がうんたらかんたらそうたらどうたら」
「勘弁してくれ……俺の小鳥のハートがあまりの重みにへしゃげちまうぜ……」
「あ、でもギルも俺的に校内ベスト5に入るいいムキムキだぜ！」
ぐ！ と親指を立てたビラブドの台詞に、ギルベルトは途端に元気になって揺れだした。
「ハハハハハ当たり前だろ俺様カッコいいしな！ ベスト5なんて他のヤツに同情してないでちゃんと一番だって言ってもいいんだぜ！」
「いや、一番はルーイかバッシュかサディク先生だな。どれもタイプが違うから一番選べないなぁ」
さっくりと再びギルベルトを凹ませたことにも気付かず、双眼鏡片手にビラブドはうっとり呟いた。
「ああホント一年いいなぁ。いや、勿論サディク先生の少し崩れかけの大人の体型だって素晴らしいけど、ルーイにヨンスに……アルフレッドとマシューもももうそこそこ脂肪絞れば相当いいし。ああ何よりバッシュ！ バッシュ！ 何故お前がそこにいない！」
一人盛り上がるビラブドに拗ねたギルベルトはケッ、と毒吐いた。
「……あのチビ針ネズミより俺の方がまだむきむきしてるじゃねーか」
「何を言う、あの鍛練に向いてない小柄で細っこい体格でも諦めることなく鍛え続け、あれだけの筋肉を手に入れたその努力に俺は最大の敬意を払いたい！ いや、誰もが払うべきだ！」
拳を握って力説しながら鼻息も荒くビラブドは立ち上がる。
「座れよバレるだろうがばかぁ！」
「おっと悪い悪い」
「全く、ビラブド君もお兄さんの体を見ればいいのに。どこまでも見せてあげるよハァハァ」
「お前今回特にハァハァ言ってばかりだな……もう5kg分ぐらいムキムキになってから頼む」
さらっとフランシスの言葉を流したビラブドに、何を勘違いしたのかアーサーがほんのり頬染める。
「仕方ないな……お、お前がどうしてもって言うんなら見せてやったっていいんだぞ」
「アーサー、お前は論外だ。菓子食ってゴロゴロしてないでもっと鍛えろ。鍛えないならせめてぷにぷにのもいもいになってから出直せ」
「ぷにぷにのもいもい……」
「ぷにぷにのもいもいはいいんだ」
「可愛いじゃないか、もいもい。俺の好みじゃないけどな、ティノは」
丁度プールサイドに腰かけてバタ足の練習をしているティノを双眼鏡の向こうに見つけてビラブドはにっこりした。
(うん、かわいい)
後ろでしくしく泣いてる声など聞こえない。
「あー、サディク先生とバッシュとルーイとベールヴァルドとギルとヨンスと菊とアルフレッドにマシューにええいついでだイヴァンもつけて一度にプール入らないかな？ 入ってくれないかな？ マッスルフェスタ2009の幕開けしないかな？」
「嫌すぎるぞそんな『ウゲッ！ムキムキだらけの水泳大会！〜ボロリもあるぜ……〜』」
ワクワクしながらそう言うビラブドの瞳は燦々と注ぐ陽光よりも熱かった。
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以上、ごめんなさいな作品でした。
仏英普とビラブド君が揃うとんっっっとにロクなことしない。
2010/01/02
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