AST(00中編) なみだ(2) *** 「うん、風邪だね」 その後、掛かり付け医師のカタギリに連絡すると、急にもかかわらず往診に駆け付けてくれた。 「脱水症状起こしかけてるから、水分と塩分取って」 「はい、有り難うございました……」 三人で頭を下げるとカタギリはクスリと微笑する。 「こんなに心配してくれる人がいるなら、大丈夫だね」 「え?」 どういう意味かわからずに顔を上げると、カタギリは手を振った。 「後日ちゃんと病院に来てね」 そう言ってカタギリは帰って行った。 「ニール……」 真っ赤な顔でぐったりとベッドに横たわるニールを見て、アレルヤの胸はズキリと痛む。 「どうして……具合悪いのに隠れたりしたのかな」 「さあな……」 ハレルヤは冷たく冷やしたタオルをニールのおでこに当てた。 「俺達にはわからない、訳があるんだろうな」 汗で頬に張り付いた髪の毛をライルが優しく梳く。 「………?」 その時、ニールの目がうっすらと開いた。 「ニール!」 「……………」 熱で朦朧としているのか、ぼんやりとアレルヤ達を見ている。 「大丈夫?」 アレルヤが聞くと、ニールは潤んだ瞳でコクリと頷いた。 そして、急いで起き上がろうとしたので慌ててアレルヤは手を伸ばす。 「あ!まだ寝てなきゃっ」 「………っ!!」 「え?」 アレルヤが手を伸ばした瞬間、ニールの身体が反射的に大きくビクリと震えた。 ハレルヤとライルも驚いてニールを見る。 「………っ」 ニールはぎゅっと目を閉じると、怯えたようにシーツに丸くなった。 「ニール……」 更に小さくなった身体が痛々しい。 「ごめんね?驚かせて」 「………っ」 アレルヤがそっと頭を撫でると、始めはビクビク震えていた身体が段々と落ち着いてくる。 「いいこいいこ」 ニールはクスンクスンと愚図りながら、アレルヤに撫でられるままになっていた。 「どうして隠れたりしたの?」 責めるような口調にならないように優しく言う。 「…………」 アレルヤはニールに聞きながらも、予感はしていた。 さっきのニールの怯え様は普通ではない。 ハレルヤもライルも気付いてしまった。 「怒られると、思ったの?」 「…………」 少しの沈黙の後、ニールは小さくコクリと頷いた。 「じゃあ……」 (叩かれるって、思ったの?) その問いは喉に詰まり言葉にならなかった。 (叩かれたり、したの?) ポロリ、とアレルヤの目から涙が零れた。 その涙はニールの頬に落ちて、シーツへと染みを作る。 「………アレルヤ」 ニールが驚いた顔でアレルヤを見たので、ハレルヤが嗜めた。 「だって……っ」 ニールが不安に思うのはアレルヤにもわかっていたけれど、涙をとめることが出来なかった。 こんな小さな身体で 必死に独りで耐えて そんなの (間違ってるじゃないか) 悪意で振り降ろされた手は、いつまでもニールの心に深い傷を負わせている。 癒されていたのはいつも自分で。 「…………っ」 (少しもニールを癒せてないじゃないか……っ) 「ニール……おいで」 「…………」 おずおずと手を伸ばしてきたニールを抱き上げると、ニールはアレルヤにぎゅっとしがみついてくる。 ぽんぽんと背中を叩いてあやすと、少しだけニールの息遣いが楽になった気がした。 「ニール」 「…………」 「ここには、ニールの味方しかいないよ」 ニールはアレルヤに抱かれながら、そろそろとハレルヤとライルを見た。 二人ともしっかりと頷いてみせる。 「誰もニールを傷つけたりしない」 ぎゅっとニールを抱き締めると、いつもより熱い体温を感じた。 「ずっとずっと、ずっと側にいるから」 ポロポロとニールの目から涙が零れ落ちた。 その涙がアレルヤの肩を濡らす。 「もう、大丈夫だ」 ハレルヤがタオルでニールの顔を拭いた。 「良い夢見れるから」 ライルはおまじないをするように、そっとニールの額に唇を落とす。 「安心してお休み」 *** 「ほら、パンプディング……まあ、パンが入ったプリンだ」 「!!」 「このメープルシロップと塩キャラメルソースをかけると更に美味いんだぞ」 いつもより更に腕によりをかけたライルのプリンに、ニールの瞳がキラキラと輝いた。 それを見てアレルヤとハレルヤは苦笑い混じりにも、ほっとする。 「食べる?」 コクコクと頷くニールに、ライルがテキパキと支度を始めた。 食欲があれば治りも早いだろう。 「今日だけ特別だからな」 そう言ってライルは『あーん』と口を開けるニールに、パンプディングを一口食べさせた。 「どうだ?食べられそうか?」 コクコク頷きながら、ニールはお気に入りのぬいぐるみに囲まれてニコニコしている。 その笑顔が本物であってほしいと祈る。 (絶対に………幸せにするからね) 愛情をたっぷり注いで 辛いことなんて忘れさせてあげる アレルヤの膝に甘えてくるニールを抱き上げながら、アレルヤは決意を秘めていた。 -------- またいつもの感じに戻ります(笑) [*前へ][次へ#] [戻る] |