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AST(00中編)
ねだる
午後からニールを預かる約束をしたその日。
ドアを開けて直ぐに視界に飛び込んで来た茶色の子犬に、ハレルヤは唖然とした。


「この子、『ハロ』って名前なんだ」
ニコニコしながらそう言ったアレルヤの腕の中で、それは元気いっぱいに返事をする。


「あんっ」


太陽の光に毛並みがオレンジ色に輝いた。
「今日はニールとハロを宜しくね」
「…………」
ペコリと頭を下げるニールと、わふわふと嬉しそうにジタバタしている子犬にハレルヤは絶句した。

「アレルヤ………てめぇ」

ハレルヤの拳がわなわなと震えたのを見てアレルヤは苦笑する。
「冗談だよ」
散歩ついでに連れて来た、とアレルヤはハロをハレルヤに見せる。
ハロはハレルヤを見ると『きゅーきゅー』と甘えた声を出した。

「元気だったか、お前」

首の下辺りを撫でると、気持ち良さそうにハレルヤの手を舐める。
この前より毛並みも綺麗で、少し丸くなった気がした。
無意識に優しく細まったハレルヤの目に、アレルヤも微笑む。
「店長が一度見せてこいって言うから」
「は?」
「『その節は有り難う』だって」
「……なんだそれ」
「はは」
色んな意味が凝縮されている感じがして、ハレルヤは眉をしかめた。
「じゃあ、ニールを宜しくね」
「ああ」
アレルヤは腰を屈めてニールの頭を撫でる。
「じゃあね」
ニールはコクリと頷いてから、いつも自分がされているようにハロの頭をなでなでする。
「きゅー」
「……………」
自分より小さなその存在にニールが何を思っているのかはわからない。
ただ、そっと宝物のように優しく撫でている。


そして笑顔を浮かべると『バイバイ』と手を振った。




***



ソファーに座りながら本を読んでいるハレルヤの足元で、ニールは大人しく御絵描きをしている。
描けたらハレルヤに見せてくるので、その度に感想を言ってから褒める。
それがいつものパターンだ。
テーブルの上にあったライルのクッキーは半分以上がもうない。
それを目の端で確認して、ハレルヤは微笑した。


「ん?」
その時、ニールがおずおずと近寄ってきた。
何か言いたそうにしているのはわかるが、今日は通訳(ライル)がいないため細かい意思の疎通が出来ない。
「なんだ?」
ハレルヤが聞くと、ニールはもそもそとぬいぐるみを見せた。
それは以前ハレルヤが作った猫のぬいぐるみだ。
また腕でも取れたかと思ってチェックするが、ほつれは見当たらなかった。
たまにクリーニングもしているので綺麗だ。

(まったくわからねぇ)

眉を寄せてニールを見ると、ニールはしゅんとして『なんでもない』と首を振った。
「待て」
ハレルヤはスケッチブックでその頭を軽く叩く。
ニールは目を丸くしてハレルヤを見た。


「諦めんな」


「!!」
「理解出来るまで付き合ってやるから」
ニールはコクコクと頷くと、ハレルヤに抱き着いた。
その身体を抱き上げて膝に乗せると、スケッチブックとクレヨンを渡す。
ニールは、むーと考えてからオレンジ色を握り締めた。
(ん?オレンジ?)
そしてグルグルと何か描き始めた。
それを見てハレルヤは苦笑いする。
(相変わらず、丸ばっか)
オレンジ色の大きい円に、何やら角と目らしきもの。


「あー……ハロか」
「!!」
ハレルヤが呟くとニールは激しく頷いた。

(言われて見ると、犬に見えないこともなくもなくも……ない)

それからソファーに置かれたさっきの猫のぬいぐるみを総合して考える。
「つまり、ハロのぬいぐるみが欲しいのか?」
ニールはパアッと笑顔になった。
どうやらハレルヤの推理は当たっていたらしく、ほっとする。
「ぬいぐるみの材料ならあるし、良いぜ」
「………っ」
滅多に物をねだることをしないニールのおねだりに、ハレルヤは何故だか少し嬉しくなる。
この年なら本当はもっと色々ねだったり、わがままでも良いのに。


「よし、待ってろよ」


ハレルヤは大きく伸びをして、裁縫道具を持ちに立ち上がる。
その後をニールはちょこちょこと追い掛けた。





***



「うわっ!可愛いっ!」

夜になりアレルヤがニールを迎えに行くと、その腕にはハロにそっくりなぬいぐるみが抱き抱えられていた。
耳には可愛い花が付いている。

ニールは満面の笑みを浮かべてアレルヤにぬいぐるみを見せた。
「良かったね、ニール!」
「!!」
コクコクコクコクとニールは興奮したように頷くと、ぬいぐるみの頭を撫でる。
ハレルヤが縫っている間もずっとそわそわしながら横で見ていた。

「ハレルヤ、ありがとう!」
「いや、簡単だから」
「ええー?」
不器用なアレルヤには信じられない。
そもそもこんなに上手に立体的にする縫い方もわからない。
「お前が縫ったら血染めになるな」
「はは……」
ニールはハレルヤの手を引っ張った。
「んー?」
そして頬をピンクに染めて頭を下げる。


「大切にしろよ」


笑いながら言ったハレルヤの言葉に、ニールは大きく頷いた。







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ぬいぐるみの材料はニールのために常備(笑)←修理用です




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