AST(00中編) ひとみしり アレルヤが『ニールの一人で御留守番はなくなった』と事の詳細をハレルヤに話すと、ハレルヤもほっとしたように笑った。 「良かったな」 「うん」 ハレルヤも、ニールが一人のときは気にしていたようだ。 その証拠に、自分が休みのときは殆どニールを預かってくれている。 極力一人にしないように……。 (有り難いなあ……) 自分の我儘を黙認してくれている弟には感謝しても、し足りない。 「……………じゃあ、無理か」 その時、ふとハレルヤが何かを考え込む仕草をした。 「どうしたの?」 「あー、実は……」 首を傾げたアレルヤに、ハレルヤは渋い顔をする。 「この前、お前が店にニール連れて来ただろ?」 「あー……」 少し前にアレルヤとニールは、グラハムとアリーに引摺られるようにハレルヤの職場へランチに連れて行かれた。 どうやら、その時に色々と観察されていたらしい。 「ニールを一度遊びに連れて来いって言われたんだよ」 「あ、楽しそうだね!」 「…………」 ニコニコと微笑むアレルヤに、ハレルヤは深い溜息を吐いた。 *** というわけで、ハレルヤはニールを自分の勤務先に初めて連れて来た。 関係者専用の裏口からの来店のため、ニールは不安そうな顔をしている。 ここがこの前来たレストランと同一とは気付いていないだろう。 きゅっとハレルヤの手を握って、眉を下げている。 ハレルヤはその小さな手を優しく握り返した。 「……はよっす」 中へ足を踏み入れると、いよいよニールはハレルヤの足にべったりとくっついたまま離れなくなった。 久々に見たニールの人見知りに思わず苦笑する。 「おー!連れて来たか」 何人かの大人がハレルヤの足元を見て顔を綻ばせた。 しかしニールはチラリと足の間から顔を覗かせると、直ぐにまた顔を伏せてしまう。 ハレルヤは前に進む事が出来なくなって、その場に立ち尽くした。 「おい、ニール?」 「…………」 名前を呼ぶと、ニールは目にいっぱい涙を溜めてハレルヤを見上げる。 「みんな俺の知り合いだから大丈夫だ」 そう言ってハレルヤはニールの頭を何度もゆっくりと撫でた。 「……………」 すると、片足にしがみつきながらもニールはおずおずと姿を現した。 そして、ペコリと頭を下げて恥かしそうにまた隠れる。 その可愛らしさに皆の顔がだらしなく緩んだ。 「坊や、名前は?」 「………」 「大人しいなあ」 「…………」 「あー………」 その時点で大事なことを言い忘れていたことに気付き、ハレルヤは頬をかく。 「こいつ、口聞けねぇんだわ」 「!!」 一気に視線がハレルヤに集中した。 「……生まれつきか?」 「さあな」 ハレルヤは肩を竦めると正直に話した。 「ごみ捨て場に栄養失調で死にかけてるのを兄貴が拾ってきたんだ」 「えっ!?」 今度は一気にニールへと視線が集まる。 「!!」 驚いたニールはビクリと震えると、ふにゃりと表情を崩した。 うるうると瞳に涙が溜まっていくのを見て、焦ったのは大人達だ。(ハレルヤを除く) 「な、泣くなよ?」 「大声出して悪かった!」 「…………っ」 しかし、一度溢れた涙はそう簡単には止まらない。 「ニール?」 大粒の涙が零れ落ちそうになった時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてニールは目を丸くして振り返った。 「お、本当にいる」 奥で仕込みをしていたライルが顔を出したのだ。 「!!」 ニールはライルの姿を見つけると笑顔で駆け寄った。 そんなニールをライルは片手に抱き上げる。 「よく来たな」 「…………っ」 「はいはい、俺も嬉しいよ」 そう言うとライルはもう片手に持っていたポップキャンディーをニールの口に入れた。 とたんにニールはご機嫌な様子でにっこりと笑う。 「美味いか?」 コクコクと何度も頷くニールを見て、周りはほっとした。 「こいつは食いもんで釣れるぜ」 「!!」 ハレルヤの言葉に、全員が持ち場へと掛け戻る。 ニールのご機嫌を取ろうと調理に向かったのが一目瞭然だ。 今日の昼のまかないは、さぞかし豪勢になることだろう。 「………仕事しろよ」 ハレルヤは今日何度目かになる溜息を吐いた。 -------- いや、格調高いレストラン設定なんですよ(笑) [*前へ][次へ#] [戻る] |