[携帯モード] [URL送信]

AST(00中編)
おとうと
「じゃあ、僕は仕事に行ってくるけど」
「…」
泣きそうな顔で頷くニールの頭を撫でてアレルヤは溜息を吐いた。

実は今日は子守を頼んであるのだ。

(大丈夫かなあ…)
その時、タイミング良く玄関が開く。
入ってきた人物を見てニールは目を丸くした。
「…この餓鬼の子守かよ」
「餓鬼じゃなくて、ニールだよ」
「餓鬼じゃねえか」
「…」
入ってきたその人の顔はアレルヤとそっくりで…ニールはビックリしてアレルヤの背中に隠れる。
アレルヤは苦笑して言った。
「このお兄さんはハレルヤ。僕の双子の弟だよ」
「!」
「弟って、わかる?」
コクコク
「良かった」
良い子、とアレルヤが褒めて上げるとニールは嬉しそうに笑う。
「甘やかしてんなあ」
しかし、溜息混じりの声が聞こえてニールはビクビクと震えた。
声もアレルヤと同じなのに、響き方がまったく違う。
アレルヤは困ったようにニールを見た。
「今日はハレルヤと御留守番なんだけど…出来る?」
「…っ」
ニールはうるうると涙を溜めたけれど、ギュッと唇を噛んで小さく頷いた。
子供なりにアレルヤに迷惑をかけないように気を使っているのがわかって、アレルヤは胸を痛める。

「アレルヤ、時間」

ハレルヤに言われてアレルヤは立ち上がった。
ニールがピクリと反応する。
「ハレルヤ、苛めないでね?」
「さあな」
ニヤリと笑ったハレルヤに、アレルヤは不安を抱えたまま出勤した。




***




「おい」
「…」
部屋の隅に小さくなっているニールを、ハレルヤは見下ろした。
「お前、いつもは何してアレルヤ待ってるんだ?」
そう聞かれて、ニールはおずおずと絵本やスケッチブックを取り出した。
「ふーん」
パラパラと見ると、良く分からない物体が描かれている。
(やっぱり、五歳くらいにしては下手だな…言葉は理解してるみたいだが)
ハレルヤは兄の拾い物を冷静に分析した。
絵本も『読む』というよりは『見ている』のだろう。
やけに幼児向けだ。
「ん?」
パラパラと絵本を捲っていると、大きなパンケーキが出て来た。
そういえばスケッチにも茶色い丸が沢山あったような気がする。
ハレルヤはパンケーキを指差した。
「これ、食いてぇのか」
「…っ」
ブンブン
ニールは慌てて首を横に振る。
「そうか」
ハレルヤは短く言うと、キッチンへと向かった。





数十分後。

「おい、昼めし」

ハレルヤの言葉に、遠く離れた所にいたニールもトボトボと近付いてきた。
「残さず食えよ」
「!」
零れそうなくらい大きい瞳でニールはハレルヤを見た。
白いお皿にはホワホワとパンケーキが乗せられていた。
蕩けたバターと、メイプルシロップがたっぷりとかかっている。
「俺はアレルヤみたいに見習いじゃないからな、美味いぞ」
今にも涎を垂らしそうなニールにハレルヤはナイフとフォークを渡す。
ニールは手元を見つめてから、じーっとパンケーキを見た。
まるで御預けをくらった犬のようだ。
「まあ…難しいわな」
ハレルヤはパンケーキを一口サイズに切り分ける。
「口開けろ」
パカ、と反射的に開かれた口にフォークを入れた。
「美味いか」
キラキラと瞳を輝かせて、ニールは何度も頷く。
そして餌を待つ小鳥のように口を開けた。
「はいはい」
ハレルヤは黄金色のパンケーキを次々と放り込む。
「サラダも食えよ」
コクコク
「プリンは好きか?」
コクコクコクコク
「全部良い子に食えたら、デザートにやる」
「!」
ニールは嬉しそうにニコニコとハレルヤを見て笑った。
「付いてるぞ」
ハレルヤはニールの口端のシロップを拭って舐めた。


(甘いな…シロップもこいつも)




***




「ただい、ま…?」


夕方になってアレルヤが帰宅したとき、玄関にいつもの出迎えはなかった。

(えええっ)

心配になりながらリビングへと向かうと、そこにはハレルヤとハレルヤに抱かれながら眠るニールがいた。
「な、ななななっ」
「…なんだよ」
出掛けるときからは考えられない光景にアレルヤは絶句する。
ニールの小さい手は、ハレルヤをキューッと掴んでいるのだ。
「なんでそんなに懐いてるの?」
ハレルヤはニヤリと笑った。
「餌付け」
「え、づけっ」

「お前より美味いからな」




仲良くなった(らしい)ニールとハレルヤに、アレルヤは嬉しいような悲しいような複雑な気分だった。






-------


基本は一人で御留守番★
頼める人がいるときは頼みます。





[*前へ][次へ#]

2/70ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!