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家族ゲーム(00連載)
16(3)
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「おはよう……」


「おはよ」
ライルが起きて来ると、既にニールは起きていて自動湯沸かし器をじっと見ていた。
「お湯、沸いた?」
「ああ」
ライルがインスタントコーヒーの蓋を開けてあげると、ニールは用意してあった二人分のカップにコーヒーの粉を入れる。
(本当はちゃんとしたコーヒーを飲みたいんだろうな)
ライルはそう思うが、本格的なコーヒーを淹れるのは素人には難しい。
昨日、喫茶店でも飲めなかったらしいし少し可哀相になる。

その時、吊った右腕が瓶に当たりグラリと傾いた。

「あ、」
中身が零れる寸前でそれをライルが受け止める。
「ごめん…」
「零れなかったんだから、謝らない」
「うん……」
もし零れていたら朝から掃除をするはめになっていただろう。
ニールはカップにお湯を注ぎながら嘆息した。




「いってきます」
「いってらっしゃい」

ニールはいつものように、ライルと隣人の二人を玄関から見送る。
「あの……ニール」
何か言いたそうにニールを見るアレルヤに、ニールは心配かけまいと笑って見せた。
「店、頼むな」
「あ、はい」
アレルヤも少し困った様に微笑む。
「ニール」
「ん?」
「今度の休みに、皆で出掛けようか」
「!」
「水族館、は行ったから…プラネタリウムとかニール好きだろ?」
ライルの言葉にニールはパッと表情を明るくした。
しかしすぐに俯いてしまう。
「行かない」
「ニール?」
「どうして?」
ライルが俯くニールの顔を覗き込む。
「…………治ったら、行く」
「ニール……」
パタパタと急いでニールは部屋の中へ戻ってしまった。

「お前らまで沈むなよ」
「………」

ハレルヤは溜息を吐いて、ライルの頭を撫でると寄り添う様に歩き始めた。



***




何もすることがなく、ニールはずっとベッドの上でうつらうつらしていた。

遠くで昼を伝えるチャイムが聞こえて、漸くノソノソと起き上がる。
「昼か………」
遮光カーテンを開けると、眩しい光が差し込んできた。
(洗濯物………干したい)
乾燥機で乾かすのと陽の光に当てるのとは仕上がりも違う。
(飯も……考えないと)
ニールは今頃三人が何を食べているのか気になった。
いつまでも出来合いのものを食べさせたくない。

(アレルヤ……)

忙しくてまた食事を疎かにしていないだろうか。
考えると胸が痛む。


「…………昼、食べるか」
ニールはキッチンへ行くと戸棚からビスケットを数枚出した。
それからコップにミルクを注いでダンクして食べる。
「…………」
味気無い食事だが、自分なりに栄養は取れていると思う。
特にカルシウムは大切だ。
「……………」
ぼんやりと口を動かす。
柔らかい感触とミルクの味が、病院食のオートミールを思わせる。

外から聞こえる子供の笑い声が、なんだかやけに遠く聞こえた。

(…………っ)

悔しかった。
利き腕を怪我した自分を恨んだ。


その時、カチャリと鍵が開く音がしてドアが開いた。
ニールがびっくりして顔を上げると、ライルもびっくりしたようにニールを見ていた。
「部屋、暗くしてどうしたの?」
「あ……寝てた、から」
「ああ」
納得したようにライルは頷くと、紙袋をテーブルに置く。
「昼、食べた?」
「今………」
「…………」
ライルはニールの手元を見て溜息を吐きたくなるのを押し止どめた。
「アレルヤから差し入れ」
「え?」
ライルは紙袋から、店長特製のピザトーストと魔法瓶を取り出す。
「魔法瓶はコーヒーだって」
まだ温かいそれらを、ライルは皿とカップに入れてニールの前に並べた。
「二人で食べよ」
「うん……」
ニールはライルをチラチラ見ながら嬉しそうに笑う。
(喜んで、くれてるのかな)
ライルは内心ドキドキしながら微笑み返す。

ニールはコーヒーを一口飲んで、破顔した。
「美味しい?」
「美味しい!」
それが呼び水になったのか、今度はピザをバクバクと食べ始める。
少し辛めのサルサソースが隠し味のピザはニールのお気に入りだった。
美味しそうに食べるニールを見て、ライルはアレルヤと店長に感謝する。

「あ………」

「ん?」
ふいにニールの手が止まった。
「アレルヤやハレルヤは……ちゃんと食べてるかな」
その言葉にライルは笑って言った。
「ああ、今日から店長が面倒見てくれてるよ」
「本当?」
「ニールが心配するだろうからって、昼飯は作ってくれるって」
「良かった……」
ニールはほっと息を吐いた。
怪我が治ったら、店長には今より更に頭が下がらない。
(暫くただ働きでも良い)
そんなことを本気で思っていると、ライルがためらいがちに言った。

「明後日は、病院の日だからね」

「う、ん」
『病院』の言葉にニールはギシリと固まった。
しかしそれは条件反射のようなもので、腕が治るのは嬉しい。
「包帯外れるといいな」
「ああ!」

ニールはにっこりと笑った。







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夏霧はサルサソースお腹壊します(爆)



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あきゅろす。
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