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家族ゲーム(00連載)
18(1)
最近ライルが変だと思う。


なんとなくボンヤリ考え事をしている時が増えた。仕事が行き詰まっているのかもしれない、とニールは内心心配していた。


それは突然だった。


いつもと変わらない夕食で、ニールがパンの角を囓った時だった。
「あいつのことだけど」
ニールは首を傾げた。ライルの言う『あいつ』とはアレルヤのことだ。
自ら話題にするのは珍しい、というより初めてだ。
「ニールはあいつのこと好きで、あいつもニールのこと好きなんだろ?」
「え…う、ん」
「付き合えば?」
ニールの心臓がズクンと高鳴る。
「な、んで」
「俺が障害なわけだろ?」
「障害なんかじゃ…っ!」
「いいかな、て思っただけ」
ニールの言葉を遮ってライルは言った。ニールはわからずに戸惑う。
「なにが?」
なにが『いい』のか。
今のライルはニールには理解出来なかった。

「もうニールを自由にしてあげて」

「じ、ゆう…って」
ニールの瞳にじんわりと涙が浮かぶ。
ライルは何もわかっていないのだ。
ライルだけがニールを縛り付けていたのではない。
ニールもライルを離さなかったのだ。
そして、その関係を『幸せ』だと。

「ニール…いや、兄さんは幸せになってよ」

今も『幸せ』なんだと、ニールは涙を零しながらも何も言えなかった。

「俺、シャワー浴びてくるから」


呆然としているニールの頭を優しく撫でて、ライルは部屋を出ていった。


「…っ」


後に残されたニールは、嗚咽を堪えながら一人で泣いた。




***



バスルームから出てきたライルはリビングの灯が消えていることに気付いた。
「…ニール?」
名前を呼ぶと、ソファーの上で何かがみじろぐのがわかった。
ライルは溜息を吐いて、灯を点す。

案の定、ソファーには目を真っ赤に腫らしたニールがいた。

「兄さん…風邪ひくよ」
暖房のスイッチを入れて、床に落ちていたブランケットをニールに渡す。
するとニールはライルの腕を掴んだ。
「らいる…っ」
「こんなに、真っ赤にして」
ポロポロと零れる涙をライルは拭ってあげた。それでも次から次へと溢れてくる。
「ライルは…も、う…俺のこといらないのか?」
「兄さん…」
ライルは悲しげに眉を下げた。
「お、俺が…っ、アレルヤ好きって…言った、からっ?」
潤んだ瞳でじっとライルを見つめる。
「や…だっ、ライル」
「…っ」
ニールはライルにギュッとしがみついた。
ライルがどんどん離れていくようで、怖かった。
「違うんだ、兄さん…」
「ラ、イル」
「兄さんはずっと俺の兄さんで、俺の半身で、俺の唯一の家族だよ。…でも、それ以上にはなれない」
「…っ」
ライルは泣きそうな表情で目を伏せる。
「ごめんね」
「なんで、謝るんだよっ」
「俺が…、俺がニールを…っ」
無理矢理身体を繋げて、二人の関係を『家族』から変えてしまった。


本気で愛してしまった。


傷付けてもいいから、自分のものにしたかった。
一つになりたかった。


今も昔もニールは誰からも好かれる人で、ライルには自慢の兄だった。
たとえ、皆が自分を「ニールの偽者」としか見なくても。
それでも良かった。




(ニールは、俺を見ていてくれたから)



でも

ひっそりと、手を繋いで歩くニールとアレルヤを見た。
見てしまった。

とても幸せそうで、胸が切なくなった。

その手が、アパートに近付くにつれて少しずつ離れていった。
その手を、引き離したのは、多分自分だとわかった。



***




「疲れた顔してるな」

ライルがベランダに出ると、隣のベランダから笑いを含んだ声が聞こえた。
ライルはそれを無視して夜の冷たい空気を吸い込む。
「あいつは?」
「寝てる」
ニールは泣き続け、疲れて眠ってしまった。
最後までライルの腕を離さなかった。
「そんな顔すんな」
「煩い」
「ここからじゃ、キスもしてやれねえだろ」
慰めてるつもりだろうか。ライルは白い息を吐く。

「兄さんさえ、幸せなら…良かったのにな」

いつの間にかニールの幸せが憎くなっていた。
一人だけ勝手に幸せになって、そんなのは許せないと、思うようになっていた。

(今も…兄さんが…兄さんだけが…俺の全てだ)



「仕方ねえなあ」
ハレルヤは空に紫煙を吐き出した。
「ニールはアレルヤに任せとけよ」
あいつなら気長にニールを癒してやれる、とハレルヤは笑う。
「俺を見捨てなかったのはあいつだけだからな」
アレルヤとハレルヤの間にも、自分とニールのような複雑な過去があるのだと思う。

(いつか、俺達も乗り越えることが出来るのかな)

きっとハレルヤの言うことに間違いはない。
アレルヤはニールを癒してくれるだろう。
彼に任せておけば、ニールは確実に幸せになれる。
少しだけ、心が軽くなる。
ライルは、ふっと笑みを零した。
それを見てハレルヤも笑みを浮かべたのを、ライルは気付かない。



「お前は俺にしとけよ」


「え?」
「俺がお前の隣にずっといてやるよ」
熱がライルの目元に集るのがわかる。
「…ふざけるな…っ」
俺なんて、という声は震えて声にならない。
(俺は…ニール以外の誰かと、幸せになんて…)


「そんな辛そうな面で…泣くな」



声を押し殺して泣くライルを、ハレルヤは静かに見守っていた。








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いよいよアレニル(メイン)話が動き出します




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