家族ゲーム(00連載) 11 「ごめんな、早くに」 ニールは開店前の喫茶店で、目の前の人物に苦笑いした。 「いえ、こっちの予定もありますから」 サックリと答えるその人物はティエリアだ。 こんな時間に喫茶店でティエリアと向き合っている。 自分がした約束とは言え、中々シュールな光景にニールは笑った。 喫茶店は昼少し前に開店する。 開店すると同時に早めのランチ時間に突入し、暫くは忙しくてゆっくり出来ないため、ニールはティエリアを開店前のデートに誘ったのだ。 せっかくなのだからただコーヒーを奢るだけではなく、話もしたいし持て成したい。 そんなことを話したらティエリアはアッサリ頷いてくれた。 どうやらティエリアも午後から大学ということで、都合が良かったらしい。 「ティエリアはブレンドが好きなんだよな」 「はい」 「あ、チーズケーキ食べねぇ?」 俺が昨日作ったんだ、と言うとティエリアは無言で頷く。 (甘いものなんて食べなそうなのにな) 気を使ってくれているのか、とニールは少しだけ嬉しくなった。 「マスター!」 注文をしようとマスターを呼ぶと、彼はシナモンスティックを口に咥えたままニヤリと笑う。 「お前が淹れてやれ」 「え?」 マスターの言葉にニールは目を丸くする。 そして、ティエリアが何故か顔を赤くした。 「お前の客だろ?」 「そうですけど」 今日の約束は『この店のコーヒーを奢る』なのだ。 「でも、マスターの方が上手い」 「あの!」 「ティエリア?」 「あなたが淹れたコーヒー、で……良いです」 本当はあなたがいれたコーヒー『が』良いのだけれど。 今この場で、はっきり言える勇気はない。 「そうか?」 ニールとしてはティエリアが良いというのなら異存はなかった。 元々コーヒーを淹れるのは大好きだ。 「美味いの飲ませてやるからな」 ニールはにっこり笑うと席を立つ。 「ごゆっくり」 マスターはヒラヒラと手を振って奥へと引っ込んでいった。 ティエリアはマスターに感謝する。 「あ、の、見てても良いですか?」 「ああ」 ニールは豆の入った缶からミルへと豆を入れた。 「今日は特別な」 いつもは朝に豆を挽いておくのだが、今日は一人分ということもあってニールはミルで手ずから豆を挽く。 静かな朝の店内に豆を挽く音が響く。 辺りに漂う香ばしい薫りにニールは頬を緩めた。 そんなニールを見てティエリアは胸がじんわりと甘く軋む。 自分のために豆を挽くニールに、涙腺が緩んだ。 何故、この人は自分のものではないのだろう。 この綺麗な人が、誰かのものだなんて。 「好きです」 「え?」 「あなたが、好きだ」 「…………」 静かな喫茶店に凛とした声が木霊した。 コーヒーを挽く手が驚きで止まる。 ニールはティエリアの言葉を頭の中で反芻した。 ティエリアは、ふと微笑むとニールを真直ぐ見つめた。 その目は切なく潤んでいて、ティエリアが決して冗談で言ったのではないことを物語る。 「もう一度、言いましょうか?」 ニールはゆっくりと首を横に振った。 いつも子供扱いしていた人物が、今はやけに大人に見える。 (いや、違う) ティエリアはもうとっくに大人なのだ。 誰かを本気で好きになって、誰かを本気で愛して。 その『誰か』が自分だとわかった瞬間、ニールは息が詰まる。 一気に顔に熱が集った。 「お、俺は」 「アレルヤと付き合ってるんですよね」 「!!」 ニールは弾かれるようにティエリアを見た。 ティエリアは笑うと、口角を歪ませる。 「でも、人の気持ちは変わる」 その言葉に少なからずニールはドキリとした。 「アレルヤより、好きだと言わせてみせます」 あまりにストレートな告白に、ニールはもう何も言うことが出来ない。 真っ赤になって俯いた。 「コーヒー飲ませてください」 「あ、ああっ」 「チーズケーキも」 「……っ」 ニールはコクリと、ただ頷いた。 おかしい。 ティエリアといて、今までこんなに緊張したことはなかった。 自分の中の変化についていけない。 (助けて!アレルヤー!) 「……ストレートに弱いんだな」 オタオタとするニールを見て、ティエリアがやけにスッキリした顔で微笑んでいたのにニールは気付かずにいた。 *** ティエリアが帰った後、ニールはぼんやりとドアを見つめていた。 マスターが豆を挽きながら感心したように言う。 「顔に似合わず男前だな」 「………うん」 これは面白い、とマスターは笑いながらケトルを火にかけた。 --------- ようやくティエリアとの約束果たせて良かったです! こんなにティエリア書いたの初めてです; [*前へ][次へ#] [戻る] |