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■リクエスト企画2011■
AST【ニール+ハレライ】
「前は刺さる美しさというか、隙のない洗練されたスイーツだったけど」


「今は柔らかさというか、優しさを感じるね」


「今のほうが良いよ」


「勿論、お客様からの評判もね」




自分で自分の変化がわからない。
いつもと同じように作っているつもりだったのに。
ライルはオーナーから言われた言葉を反芻しながら溜息を吐いた。
目の前の新作ケーキのレシピはまだ真っ白のままだった。









***





「………………」
その日ライルは、ニールがいるハレルヤのマンションを訪ねた。


もぐもぐしているニールの手元を見てライルは顔をしかめる。
そこにあったのは市販のクッキー。
「こんなもん」
もっと安全で健康的な手作りクッキーを食べさせてやればいいのに。
そう言うとハレルヤは笑った。
「良いんだよ、たまには」
ライルはハレルヤを見る。
たまにハレルヤの考えはわからない。
「お前、新作考えるから篭るって言ってなかったか?」
「そうだけどさ……」
痛いところをつかれてライルは溜息を吐いた。
なんとなく煮詰まっている。
それで気分転換に来たのだが。
同じ職場のハレルヤには言いにくい。
パティシエとシェフという違いはあるが、ライバルでもあるのだ。
これはライルの一方的な考えかもしれないけれど。
ライルはニールの向かいに座ると、口についた粉を拭いてあげながら言った。
「美味いか?」
「!!」
こくこく
そんなニールの反応を少しだけ残念に思う。
「お前はなんでも美味いって言うからなあ」
「?」
「ミルクも飲めよ」
こくこく
「………はあ」
「?」
そんな二人を見ながらハレルヤは苦笑いを浮かべた。
「ニールには味がわかんねぇと思ってんのか?」
「だって……皿とか食いついたりするくらいだし」
今だって市販のクッキーを美味しそうに食べている。
いつもちゃんと手間をかけて作ってやってるのに。
別に、褒めてもらいたいとかそういうことではない。
ただ、市販も自分の手作りもニールには同じだと思ったら。
心臓あたりがざわざわしただけだ。
そんなライルの気持ちを余所に、ハレルヤは更に市販のクッキーを持ってくる。
「ほら、貰い物のクッキー」
「!!」
もぐもぐもぐもぐもぐもぐ
余程美味しかったのかニールの表情が輝いた。
ハレルヤに手を伸ばしておねだりしている。
ハレルヤは笑って、小さいクッキーを二枚ニールに手渡した。
パアッとニールの顔がまた輝く。
子供らしい反応だけど、ライルは少しだけむっとする。
「!!」
そのときニールがライルを見た。
そしてライルにクッキーを見せてニコニコ笑う。
「あ?」
ライルの顔に押し当てんばかりの勢いで差し出してくるクッキーをライルは溜息混じりに見た。
ニールは一人で興奮している。
「……そんなに美味いかよ」
こくこくこくこくこくこく
それを見てハレルヤがニヤリと笑った。
「流石だな」
「ああ?」
ニールがふにゃふにゃと口元を緩ませた。
仕方なくニールの波数に合わせる。
すると予想外の言葉が聞こえた。
「ん?俺のクッキー?これが?」
こくこくこくこくこくこくこくこく
「そんなわけ……」
溜息を吐きながらクッキーを摘んで「あれ?」と思う。
「これ……」
確かにそれはライルの作ったクッキーだった。
しかしハレルヤがさっき市販の箱を開けたのをこの目でしかと見たのに。
「うちのギフト用のクッキーだぜ」
「…………ああっ!」
ギフト用クッキーの存在を思い出してライルは声をあげた。
個数限定で気まぐれに作るものだし、パッケージされてるのは初めて見たからわからなかった。
「…………………」
美味しそうにクッキーを食べているニールを見る。
パラパラ零しながらにこにこ食べている。
このギフトを貰った、どこかの誰かも、こんな風に食べてくれているのだろうか。
レストランに来てデザートを食べてくれる客も。
そんなことを考えたのは久しぶりだった。
胸が、甘く締め付けられた。
「こいつはちゃんとわかってんだよ、お前の味」
「…………みたいだな」
ライルはニールのカップにミルクを継ぎ足して、笑った。
「美味いか?」
「!!」
こくこくこくこくこくこく










帰ったら、ケーキを作ろう。
甘くてふわふわな、ニールのほっぺみたいなケーキを。


























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書いていてクッキー食べたくなりました(笑)







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