6 オカリナ[羽菅]
スゲェ!これアレじゃん、魔法の楽器!空飛べたり、何か木とか超早く育ったりするんだろ?で、なんかこっからムチみたいなの出てくるんだよな!ガキの頃超あこがれた!!どこで手に入れたんだよ羽井!
菅野さん、それはアニメの話です。
7 ガラス細工[米香]
燭台が目に付いた。
寝室のバーカウンターに置いたら綺麗かもしれない、と思いながら手に取った。
細い糸のような硝子で幾重にも織られた繊細な細工は、少し力を入れれば折れてしまいそうで、それはどこかあいつの姿に似ていた。
「どうしたの、香織。」
それが欲しいの?と屈託のない笑顔を浮かべている、あいつ。
8 十字架[羽菅]
「なあなあ、似合うだろ?」
そう言って彼が馬鹿みたいに嬉しそうな顔で見せびらかしてきたのは、胸元に踊っているシルバーのアクセサリー。
無骨なシルエットのそれは、確かに彼によく似合っていた。
「ええ、似合いますね。馬鹿っぽくて。」
「ばっ、馬鹿っぽいって何だよ!」
「よく勘違いした中学生なんかが付けてるじゃないですか、クロスのペンダント。」
俺の言葉に一瞬逡巡してから、恥ずかしそうにペンダントをはずす。
全く単純な人だ。
誰かから貰ったのかもしれないそれに、俺が嫉妬してるなんて夢にも思わないんだろう。
9 鏡[米香]
ガラス板に自分が写っているのだと思った。
しごとのためならいくらでも自分を捨てられる――いや、はじめから"自分"なんて持っていないような、そんな目をしていた。
自分よりもてんで小さいガキに追いつめられ、銃口を突きつけられているというのに、特に感慨もない自分。
その引き金を引けば確実に、ひとつの命を奪うことになるというのに、目の色一つ変えない少年。
俺たちのどこが違うというのだろう。
鏡の向こうの俺が、嫌にゆっくりと引き金を引いた。
10 時計
「米良、時計ずれてる。ほら。」
「え……ああ、本当だ。」
付き合わせたふたつの時計。
1分、ずれていた。
仕事柄どうしても、時計を合わせろ、なんて映画みたいなことがまま必要になる。
だからいつでも神経質に合わせている、というのもあるけれど、それよりも。
ふたりの時間が、いつも同じに流れているように。