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「おい、大丈夫か、恭弥!」
「別に……平気……」
「うそつけー、足折れてるだろ」

 ……そんなわけで、跳ね馬に背負われている。
 不覚だったと言うほか無い。
 いつも通り手合わせをしていて、ついつい夢中になって山に入り込んで、跳ね馬の鞭を避けた拍子に、うっかり足を滑らせて崖から落ちた。
 ……気付いたら足首が有り得ない方向に曲がっていて、痛いというか感覚が無かった。流石にこれは誤魔化しきれないし、歩けと言われて歩けない事はないだろうけど、痛いものは痛いし。
 背負われるのは不本意だったけど、横抱きにされるよりはマシだ(最初、そうされそうになった)。
 大きな背中は暖かくて、手合わせで疲労した身体を優しく包んでくれる。……なんて、思っているなんてことは、絶対顔に出さないけど。
 一定のテンポで揺れていると、段々瞼がとろけてくる。

「しかし、どうしたんだ、恭弥。お前らしくない」

 いつもならあんな凡ミスしないだろ、と言う跳ね馬の言葉に、うるさい、と手を伸ばして耳を抓る。
 相手があなただからだ、とは言わない。

 だって、好きだから。

 言わないけど。
 絶対。
 どう考えたって気持ち悪がられるだけだし。現に、過去に僕だって……やめよう、思い出したくもない。けどとにかく、男に告白なんてされたら気持ち悪いだけだ、って、知っている。
 言ったら、こうして手合わせしたり……何の気負いもなく背負われたり、そういうことも無くなるだろう。それは、嫌だ。
 だから、言わない。

「ホテルに、回復系の匣の試作品が届いてるはずだから、使ってやるよ」
「実験台にする気?」
「手術するのとどっちが良い?」
「……ほっとけば治るよ」

 過去に骨折した時も、跡が残るのが嫌でテーピングで治したし。
 僕にとっては当たり前の事なんだけど、跳ね馬は嘘だろ、と言った。

「まあ……理論的にはちゃんと固定しときゃ治るんだろうけど……完治するまで手合わせ無しだぜ?」

 それは嫌だ。結構時間が掛かるのは知っている。
 仕方ないから実験台になってあげるよ、と呟いて、跳ね馬の背中に頬を預ける。
 本気で嫌なわけでは無いのだ。匣という技術はとても興味深いし。
 ただ少し、困らせてみたかっただけ。

「ほんと、あんま無茶すんなよ。心配すんだろ」
「……なんであなたが心配するのさ」
「そりゃ……」

 そう言って、ディーノは少し言葉を選んでいる様だった。
 不自然な間が空いて、それからぽつりと、大事な一番弟子だから、という声が聞こえる。
 なんだろう、少し、言い訳がましい響きがした。

「……それだけ?」

 だから、つい。
 つい、ちょっとだけ、突っ込んでみたくなった。
 それは多分、僕がそういうことを考えているから、相手の行動もそういう風に見えてしまうだけだと、解っているんだけど。

「……他に何かあるのかよ」
「……別に」

 返ってきたのは素っ気ない答えだったけど、やっぱり何処か不自然な間があって。
 突き詰めたいような、突き詰めて、やっぱり断られるならば、曖昧なままにしておきたいような。
 僕らしくもない、中途半端。

「ばか」

 ディーノに聞こえないように唇だけ動かす。
 そして、頭の位置を変えるフリで広い背中に頭突きした。

「いてぇ! 恭弥、何すんだ!」
「何もしてないよ、頭の位置変えただけ」
「嘘だ! 殺意感じたぞ殺意!」

 こんな騒がしいひとの、何処が良いのだろう。自分でも甚だ疑問だ。
 だけど、やっぱり背中は広くて、ぴったりと触れあっている箇所から、何か暖かいものが体中に流れ込んでくる。
 気持ちがぼんやりとして、眠たくなってきた。

「少し寝るよ」
「あ、おい……まあ良いけど、落ちるなよ?」
「落としたら……咬み殺す……」

 ふわぁ、と大きなあくびが喉を通り抜けてくる。
 この背中は、今は僕だけのもの。

――ずっと、そうだったらいいのに。

 独占欲に身を焦がしながら、僕はゆっくりと目を閉じた。









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お題メーカーで引いた「思い人の背中に背負われて「バカ」という雲雀」を書いてみましたの会。最近でぃの←ひばブームです。天真爛漫なディーノに片思い腹黒きょーやも可愛いと思うんです。



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