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屋台にて[+10嶽]




 かたたん、かたたんと、硬質な音を立てて電車が高架を通り抜けていく。
 それを聞きながら、二人はずるずると縮れた麺を啜っていた。

「テメェ、何だよ今日の試合は。」
「たまには不調の日もあるのなー。」

 片方は銀髪にスーツ姿。
 もう片方は黒髪にラフな私服姿。
 どちらも身長はかなりのもので、ガード下の屋台からは著しく浮いている。
 ビジネス街のこの辺りにスーツは珍しくないけれども、外資系は少ないので銀髪が目立つ。
 私服姿というのも同じくらい珍しい、とは言わないが、サラリーマンの多いこの屋台街にはそう

多くない。
 それに何よりも、二人のその整った容姿はそうそう見られる物ではない。
 屋台のおっちゃんが、少し緊張しているのはその所為かもしれない。

「折角隼人が見に来てくれたのになー。」

 ずるる、とほどよい歯ごたえの麺を口へ運びながら、獄寺がけ、と呟く。
 偶々仕事が無かったからだ、と口の中のものを飲み込んでから続けて、それからまた麺に箸

を付ける。

「ホームランプレゼントしたかったなー。」
「いらねぇよンなもん。」
「いいとこみせてぇじゃん?」

 すきなやつには、という最後の一言だけは唇を動かしただけ。親父は俯いてなにやら作業して

いたから気付いていないだろう。
 だけどそれでも獄寺は気恥ずかしかったのか、山本の唇を抓る。
 いててて、と冗談交じりの声が上がった。

「ひでー。」
「馬鹿なこと言うからだ。」

 ツン、と顔を背けてから獄寺はまた箸を取る。
 良く味のしみたシナチクを山本の口へと放り込むと、少し黙った。

「明日からまたイタリア?」

 ごくん、とシナチクを飲み込んだ山本が、すこし寂しそうに口を開く。
 獄寺はつとめて何でもない風に、ああ、とだけ答える。
 二人とも、今度は少し長く黙った。

「そっか。」

 ぽつんと一言呟いて、山本は手にしたどんぶりから直にスープを飲み干す。

「このヤマ片づいたら、纏まった休みを頂けるそうだ。」
「いいのかよ、ツナの傍離れて。」
「よかねぇけどよ。」

 相変わらず、友人――いや、もう完全に上司となってしまったか――べったりな獄寺にはいい

加減もう慣れてしまったけれど、でもやっぱり即答されると少し悲しい。

「十代目も、俺がいたら休まらねぇだろ。」
「大人になったなー、隼人。」
「ケッ。たりめぇだ、いつまでもガキじゃねぇ。」

 そう言って懐から煙草を取り出す仕草に、少しだけ懐かしいものを覚えて、山本はくすりと笑っ

た。

「じゃ、予定あけとかねーとな。」
「馬鹿言え、シーズン中だろ。」
「うん、まあそうだけど。」

 ちょっと寂しそうに呟く山本に、獄寺はちらりと一瞥をくれて、ポケット灰皿に吸い殻をねじ込む



「部屋綺麗にしとけよ。散らかってたらホテル取るぞ。」

 暗に泊めろ、と言っている獄寺に、山本はにっこりと笑っておう、と答える。
 それから獄寺の銀の髪をわし、と一度撫でて、尻のポケットから札を一枚出すと店主に差し出

した。

「じゃ、またな」

 そう言って先に立ち上がる。
 獄寺は、山本の足音が消えるまで座っていた。それからふらっと立ち上がると、ごちそうさん、

と呟いてのれんをくぐる。
 低い空に、星がちらちらと光っていた。








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山獄でサーセン。最近ちょっと嶽萌むくむく。
+10の山獄は色気がありすぎて狡いと思うのですが、私が書くと青臭くなるなぁ。
二人きりの時は青臭いと良いと思う。



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あきゅろす。
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