なあ恭弥、と甘ったるい声に呼ばれて僕は振り向く。
オレンジ色のダウンライトに照らされた蜂蜜色がふわりと揺れて、ディーノが笑った。
「今日は素直だな。」
「悪い?」
「ううん、嬉しい。」
幸せです、と書いてある顔が近づいて来るから、見ていられなくて目を閉じる。
乾いた唇が触れて、軽く音を立てて啄むようなキスをされた。拒まないでいるとやがて舌が唇の隙間に割り込んできて、あっという間に口の中じゅうを良いように弄ばれる。
ほんのり体の芯に残り火を感じるけれど、今日はもう疲れてしまった。キスだけでもじんと痺れる背筋に、思わず唇の隙間から呼気が漏れる。
「感じる?」
「もう無理。」
「ははは……俺も。」
「体力落ちたね、あなた。」
「恭弥だってもう無理なんだろ?」
負担が違うよ、と言いかけて欠伸をひとつ。本来想定されていない使い方をした体はずんと重たくて、とろとろと瞼が蕩けそうだ。
「ちょっと前までは……僕がもう嫌だって言ってもしつこかったのに……」
「恭弥が慣れてきたんだろ……始めの頃は一回しかもたなかったのに。」
「しつこい誰かさんに付き合ってたら誰だってそうなる……」
言ってから少しだけ後悔した。
そういう女は多そうだ、と思って。
「恭弥が好きだからいっぱいしたいだけ。……恭弥だけだよ。」
何が僕だけなのかはいまいち解らないけど、そう言いながらちゅっと音を立てて頬に髪にキスを降らせてくるディーノの声は真剣で、甘ったるいことを言っているはずなのにどことなくビターな雰囲気。
「初めて、ずっと一緒に居たいって思った。遊びじゃ嫌だって思ったのは、お前だけだ。」
「フン……遊び相手は、いっぱい居たんだね……」
本気は僕だけだと言いたいのは解っていても、そして過去をとやかく言うのは器が小さいようだと解っているけれど、しかし女と肌を合わせる跳ね馬を想像するのは、例え過去のことだとしても嫌だった。
「……今は恭弥一筋だから。」
「当たり前だよ。浮気なんかしたら……殺す。」
「ハハ……恭弥ならほんとにやるな。」
「僕は冗談は言わないよ。」
手を伸ばすまでもなく届くディーノの胸ぐらを掴んで引き寄せる。そして、噛みつくように口付けた。
「あなたは……僕のものだ。」
「わぉ、すげー殺し文句。」
でれ、と途端に顔を弛ませたディーノが、応えるみたいにキスを返してくる。
微かな水音を立てて舌が絡み、触れているところから溶けてしまいそうな幸福感に包まれる。
他人との、こんな甘ったるい接触を心地よく思うことなど、彼と出会わなければ知らないままだっただろう。
「愛してる、恭弥。」
至近距離から耳に流し込まれる言葉も、今ではスッと頭の芯に染み込んで僕を幸せにする。
それを顔や言葉に出すのは僕の役じゃないから、黙って目を閉じるのだけれど。