聞けば、ジャポーネではナターレを恋人と過ごすという変な風習があるらしい。
「だから、僕は見回りで大忙しだよ……風紀が乱れる。」
が、電話の向こうの恭弥は、特に抑揚なくいつもの調子でそう続けた。
「そっか……俺もナタ……クリスマスはファミリーのパーティーと、教会のミサ周りがあるから……ちょっとそっちには行けねーな……」
せっかく恭弥が、クリスマスには日本に来るの、なんて聞いてくれたのに。畜生、日本のナターレが恋人達の日って知ってりゃ休みくらい………いや、知ってても休みは取れねぇか。
貧困街と深いつながりのある教会とは、特に付き合いを深めて置かなければ仕事がやりにくい。日頃から寄付はしているか、やはりナターレの礼拝に参列しないと言うのは面子が立たない。
「……そう。てっきり押し掛けて来ると思ってたけど、好都合だよ。」
救いは、恭弥があまり「ナターレを俺と過ごすこと」に執着してはいない様子なことか。
プレゼントは呉れるんでしょ、と子供らしいことを言うから、送るよ、とだけ伝えた。
「まあ、クリスマスは恭弥も家族とパーティーでも……」
さて何を贈ろうかと考えながら、上の空で言いかけて、慌て口を噤んだ。
恭弥の家族を、俺は見たことがなかった。アパートで不自由なく一人暮らしをしていることから、金には困って居ないことは分かるけれど、両親がどこにいるとか……存命かどうかを含めて、俺は聞かされたことも、尋ねたこともない。
けれど少なくとも、家族で暖かなパーティーを開くような家庭環境でないことは確かで。
「や……ごめん…」
「何謝ってるの……仕事で大忙しだって言ったでしょ。」
しかし、俺の葛藤などどこ吹く風、恭弥は呆れたような声で答えた。
大体クリスマスに家族でパーティーなんて、小学生じゃあるまいし……と続ける恭弥に苦笑して、正月は一緒に過ごそうと提案する。
正月も仕事、と言う仕事の虫に、ナターレの贈り物を決めた。
「街の奴らにも、正月くらいははしゃがせてやれよ。」
また電話する、と電話を切って、早速ロマに電話。
「26日日本発イタリア行きのチケット、25日に恭弥んとこに届くように手配してーんだけど。」
もちろんファーストクラスで。