3
俺には嫌いな男がいる。
しかも俺は昨日奴に襲わされかけた。
そう、襲わされかけたのだ。
困ったことに奴の自身に手を持っていかされても俺は、嫌悪するどころかそのまま奴を襲ってしまいそうで。
取り返しがつかなくなる前に、慌てて逃げた。
下半身丸出しの奴を置いて。
だから気まずくて、暫く奴と関わりたくない。
きっと奴もそうだろう。
それなのに何故。
「先輩ー。お茶いります?」
奴はいつも通り話しかけてくるのだろう。
「あいつは何のつもりなんだろうか」
プロジェクトも漸く明け、打ち上げの飲み会。
その三次会と称して一番気の許せる同期の矢村と二人で飲みながら、俺は呟いていた。
「なにかあったのか?」
突然の言葉に矢村は質問を投げてよこす。
散々飲んだ上での三次会。
今までの忙しさからの疲れも手伝って俺もだいぶ酒が回っていた。
酒の力とは、恐ろしいものだ。
口がいつもの何倍も軽くなる。
「それがだなー」
この間の出来事を全く隠しもせず、話す。
「この前赤坂から…」
話す。
「…嫌じゃなかった自分が怖くて…」
話す。
一人悩んでいたことを打ち明けられてすっきりしたのか、この日の記憶はこれを境に途切れた。
「……」
目を明けると途端に入ってくる明かりに目を細める。
辺りを見回すと、そこはよく見慣れた自分の家だった。
昨日の記憶は曖昧。
家に辿り着いたものに関しては、まったくなかった。
ということは、矢村がここまで送ってくれたのだろう。
そう思いもう一度辺りを見渡すと、後ろ姿だけ見えるソファから彼のものとみられる足が見えていた。
ベッドから這い出てその寝顔を覗くと、気持ちよさそうによく寝ている。
起こすのは忍びなかったが今日だって仕事がある、俺は矢村の肩を揺すった。
「……ぁ?おはよう」
「おはよう」
と、矢村はすぐに意識を覚醒させた。
こうして二人で飲んで俺がつぶれたあと送ってもらうことも少なくなく、こいつにはいつも世話になっている。
「昨日は悪かったな」
準備をはじめている矢村の背中に声をかけると、大丈夫というように片手をあげられた。
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