[携帯モード] [URL送信]

俺には嫌いな男がいる。

そろそろ電車もなくなる深夜12時前。
まだ片付く目処すらたっていない仕事の山を前にして、俺はため息をついた。

(この分じゃ、今日も帰れない、か)

一つのプロジェクトも佳境に入り、今週はまともに家に帰っていない。
まぁ帰ってもどうせ誰も待つ人のいない1LDK、帰っても帰れなくても大差はないのだが。

(一息つくか)

俺は無茶な終電を潔く諦めて、コーヒーを取りに給湯室へ向かうことにした。


部屋をでて給湯室へ向かう廊下を歩く。
時間が時間なだけにもう誰もいないのか、辺りはしんと静まり帰っていた。
自分の足音だけが静かに響く。
と。

「???」

静寂を壊すようにカツンと何かをぶつける音がした。
振り返ってみると、少し後ろに資料室の扉。
そこから聞こえる潜めた声らしき音。

「何をしている」

俺はそのドアを躊躇いもなく開いた。
普段なら心霊的なものを疑って怯えるところだろうが、心当たりがあったのだ。
開くとやはりそこにはよく見知った男と、顔を赤らめた新入社員らしき初々しい男。
「すっすみません…!」

半裸のままの新入社員が顔を更に染め上げてバタバタとでていった。
残ったのは。

「先輩こんばんは〜」

はだけた胸元。
申し訳程度に片足に引っかかったスラックスとボクサーパンツ。
床に座ったまま大きくM字に開かれた足の間からは濡れた陰部が丸見えになっている。
明らかに情事の最中だったことを表す男が、床についてた両手のうち片方を上げてこちらにひらひらとふった。

「赤坂…またお前か」

赤坂はまるで下半身と顔は切り離されているといったように、情事をまったく感じさせない顔でへらへらと笑った。

「会社はラブホテルじゃないと何度いえばわかるんだ」

その生々しい光景に思わず目をそむけながら、いったって無駄だろう注意をする。

「いいじゃないですか、別に」
「よくない、まだ会社に人も残っているだろ。そういうのは家とかホテルとか誰もいないときにやれ」
「例え声をあげたって、誰も入ってきませんって。先輩以外」

…確かにそうだろう。大体こんな時間まで残業してる奴がいること自体珍しいし、声が聞こえてもわざわざ情事が行われてることがわかっていてドアをあける奴なんかいないだろう。

「そういう問題でもないだろう」

言い負かされそうになって、半ば諦めながら投げ遣りに言葉を紡ぐ。
この男は社内Hの常習犯。
何度もしたこのやり取り。
やはり何をいっても無駄なのだ。

「兎に角」

俺はもうやめにしようと、ドアへ向かい廊下へでようと扉を開いた。

「さっさと後片付けをしてタクシーか何かで帰れ」

今日もいつも通り見なかったふりをして仕事に戻るのだ。


[次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!