連載小説 ▼新人 「あれ、新しい人?」 レジに立つ見慣れぬ顔の店員を見やりながら、ケイスケはコノエに声をかけた。 コノエは棚にカップ麺を並べる手を止め、ケイスケを振り返って頷いた。 「昨日から入ってもらって。蓉司っていうんだ」 「へぇ〜…」 ケイスケは蓉司と呼ばれた少年に視線を戻した。 新人が入ったのを見るのは初めてだった。 蓉司は背の高い細身の少年で、ひどく色が白く、儚げとも言える印象を受けた。 アキラやコノエも色が白い方だが、蓉司は色白を通り越して蒼白だ。 突然倒れたりしないのかと見ていて不安になる。 「蓉司が入ってくれて助かってるよ」 そんなケイスケの思いも知らず、コノエが染みじみと呟いた。 その口元には安堵の笑みが浮かんでいる。 「ちょっと愛想が無いけど礼儀正しいし、常識があってまともだし。真面目だし」 即戦力になったよ、とコノエ。 その目線の先にはカップ麺。しかし、彼の瞳は今までの苦労の道のりを見つめているかのように見えた。 「大変そうだったもんね…」 ケイスケは苦笑いを浮かべた。 このコンビニの店員は皆ちょっとだけ変わっている。 まず店長が変わり者だ。 俺様な性格で愛想が無く、挨拶が出来ない。 客の中では彼を怖がる者も多い。 客に恐がられる店長など致命的だ。 更に搬入のバルドとは仲が悪く、下手をすれば乱闘を起こすという問題店長だ。 バイトのアサトは挨拶は出来るが世間知らずで、たまに突拍子も無い行動に出てはコノエを驚かせている。 さらに、ちょっとだけ店長のライと仲が悪く、コノエはいつもその板挟みになっていた。 その上、類は友を呼ぶというものなのか、変わった店員に加え、変わった客が集まり、店はいつもしっちゃかめっちゃかという状態だったりする。 店で唯一の常識猫であるコノエはそれらの問題を全て1匹で請け負っていた。 それはそれは大変な苦労だったに違いない。 「よかったね、コノエ」 「ありがとう」 コノエが微笑む。 ケイスケは友人が救われた事を心から喜んだ。 そしてほんの少しだけ、この問題コンビニにバイトに入ってしまった新人に同情した。 新人蓉司の前途は想像以上に多難だが、彼はまだその事を知らない。 END [*前へ][次へ#] |