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気付けなかった未来、気付いてしまった嘘



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『ロクサス…あの…』


『こんな時間に、どうしたんだよ』


嫌な予感、と言うのはこの事なのだろうか。ロクサスの部屋の前にいるのは泣き腫らした目をした、ナマエ。少し肌寒い…深夜の出来事だった。元より静寂で満たされた城の一室、ロクサスの部屋はいつもより濃い静寂で包まれていた。


『…の…その……ッ』


『…取り敢えず部屋入って、寒いだろ』


泣き腫らした目から再び涙が零れ落ち、床に雫が落ちる。ロクサスには涙を流す理由も、涙を流す人間の気持ちも分からなかった。然しながら取り敢えずナマエを部屋へと招き入れ、白いベッドへと座らる。


『…紅茶で良いよな』


『うん…ごめんなさい…』


ロクサスの香りのする部屋で落ち着いたのか、鼻を啜りながらナマエはベッドに腰掛ける。その様子を見、ロクサスは紅茶を入れに台所へと向かった。


『ロクサス…』


『ナマエ…ちゃんと座って待ってろよ』


湯を沸かすロクサスの背後からナマエの声がする。どこか心細そうな、そんなナマエにロクサスは向き合う事なくコンロを右に回し、火を掛ける。


『ごめんなさい…』


『…』


何を謝る必要があるのか、理解出来ない訳ではなかった。普段おっとりとしているくせに、勘だけは働く。そんなナマエがロクサスは時に恐ろしくなる事さえあった。現に、ロクサスはナマエの目を見詰める事が出来ないでいる。彼女の瞳に誤魔化しは効かない…、ロクサスはナマエにこれから起こる事を悟られる訳にはいかなかった。


『ロクサスが…あたしの目の前から消えちゃう夢…見たの』


『…馬鹿だな、俺が消えるなんて有り得ないだろ』


未だ、視線を合わす事すら叶わない。背中しか見えないロクサスの姿をナマエは見詰める。気付いた時には部屋の前にいた…その先の事など、考える余裕はなかった。唯、嫌な予感を掻き消したい気持ちだけが、ナマエの身体を動かしていた。


『ロクサス……ロクサス、あたし…っ』


顔を上げた瞬間、目の前が真っ暗になった。唇に触れた冷たい感触…それだけで何を言いたかったのか、分からなくなってしまう。触れた唇があまりにも冷たく、身体を凍らせてしまう程に痛く、思考が停止する。


『んッ…ふァ…んんっ』


まるでナマエから熱を奪うように激しく口内を掻き乱し、歯が当たる事すら気にせず、何度も何度もロクサスの舌はナマエの温もりを求め続けた。


『ふう…っ、ん…あ、ふ…ッ』


互いの呼吸が絡まり、湯が沸騰する音すら互いの舌を貪る音、荒い呼吸音に掻き消される…。腰に回された手はしっかりとナマエを支え、強く、ナマエを抱き締める。


『んっ…はァ…ロク…サ、ス…』


『俺は……』


もういっそのこと、言う事が出来れば楽なのに…。そんな考えが頭を過る。叶わない事だと分かっていても、ナマエを巻き込んでしまえたら…。唇を離しても尚、ロクサスの葛藤は止む事がなかった。


『…ッ、ロクサス…っ』


ならば、今だけは求めても許されるだろう…ロクサスの我慢はベッドまで保つ事はなかった。それはまた、ナマエも同じであり、伸びて来たロクサスの手を拒む事なく、受け入れる。





















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