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跳ねて、揺れる

(跳ねて、揺れる)
揺れて、染まる




『髪、かァ…俺は短い方が好きかなァ』


なんて事を言った彼を思い出しながら、休日を待って、胸まで伸びた髪を切り落とした。


『切り過ぎた…かな』


街を歩くと自然と映る自分の姿を無意識に見詰め、指に巻き付くには足りない髪を指でなぞる。彼は喜んでくれるだろうか、髪の短い自分を好きだと言ってくれるだろうか。


『あれっ、えっ、ナマエ…』


『き、切っちゃった…』


家に帰ると大好きな亮ちゃんが驚いた顔をして迎えてくれた。それはそれは目を真ん丸にして、心底驚いた顔をしている。それもそうだ、ちょっと買い物に出掛けて来ますと言って出掛けて帰って来たナマエの髪が短くなっているのだから。


『な、何でっ、いや、めちゃくちゃ可愛いけどっ。いや寧ろ本気で可愛いんだけど…っ』


『亮ちゃんが…短い方が好きって…』


余程驚いているのか、亮ちゃんが何を言っているのか何を言いたいのか良く分からなくて、ナマエも何と答えて良いのか分からなくて、噛み合わない会話が一つ。


『あ、いや、短い方が確かに好きだけど…ナマエなら俺はどっちでも好きっつーか…』


『な、長い方が良かったかな…』


喜んでくれているのか、喜んでくれていないのか微妙な言葉。そんな言葉を聞くと、似合わないのかなって心配になって、気持ちが沈む。確かに亮ちゃんが短い方が好きでも、ナマエに似合うかは別の話で…


『いや、そうじゃなくてさっ…ナマエが俺の好みに合わせてくれんのが嬉しいんだけど恥ずかしくて…』


『亮ちゃん、良く分からない…』


嬉しいのに恥ずかしいって、どんな感じなんだろう。亮ちゃんは昔から自分の気持ちには正直で、何でも言葉にする。だけど、今日ばかりは嬉しいのか違うのかはっきりしない。良く分からないまま、亮ちゃんを見ていると亮ちゃんはナマエにどう伝えたら良いのか考えるように首を傾けて、


『…俺がすっげェどきどきしてんの、分かるだろ』


『わ……』


ナマエの手を握って、そのまま自分の胸に当てる。薄いTシャツの奥にある亮ちゃんの胸はドキドキと波打っている。嬉しいのに恥ずかしいって、こんなに熱くって、こんなにドキドキする…のかな。


『ナマエ、めちゃ似合ってる。すっげェ可愛い。…大好き』


『は、恥ずかし…あっ』


ナマエのその言葉を待ってましたと言わんばかりに、亮ちゃんが急いた様子でナマエを抱き締める。ナマエの耳のすぐ近くに亮ちゃんの胸があって、手で感じるよりも大きなドキドキがナマエの耳から伝わる。


『俺だけじゃなくって、ナマエもドキドキしてんの、分かるだろ。これが、嬉しいけど恥ずかしいってやつ』


『ナマエ…凄いドキドキ、してる…』


亮ちゃんのドキドキばっかりかと思っていたら、いつの間にかナマエの胸もドキドキしていた。亮ちゃんに似合ってるって、可愛いって、大好きって言われて嬉しい。だけどそれが恥ずかしくって…


ああ、これが嬉しいのに恥ずかしいって事なんだ…


『ナマエも、嬉しいのに恥ずかしい…』


『そ。俺とナマエ、今同じ気持ち…へへっ』


照れ臭そうに笑って、ナマエを抱き締める力がちょっとだけ強くなる。ナマエもナマエで、恥ずかしくって、亮ちゃんの胸に顔を押し付けたまま。亮ちゃんの指がナマエの軽くなった髪を撫でて、それがまた気持ち良くて、


『駄目…』


『へ…』


思わず出た言葉に頭から亮ちゃんの素っ頓狂な声が降り懸かる。


だって、だって…


『気持ち良くて、ナマエ、とろけちゃう…』


『…っ、お前、もうその可愛さは犯罪…っ』


短くなった髪が、揺れたと思った瞬間に感じたのは後頭部を支える亮ちゃんの腕と、柔らかいベットの感触だった…


















(身体に散った、ピンクの桜)


それを見る、彼の顔がやけに大人。

















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110507めぐ
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