失えば終末
白く、何も見えないぐらいに白い世界で結崎は何かを見下ろしていた。正確には白い世界に一つだけ色を宿したものに自然と視線を下ろしている
背中を丸め、膝に顔を埋め…
あれは、俺だ…俺は俺自身を見ているんだ…
自分が己自身を見ている事に漸く気付く。それと同時に夢の世界にいる事も結崎は自然と理解していた。唯自身を上から見る、それ以外何も変わる事のない刺激のない夢。何の変化もない夢を見ていても面白くはない…早く目覚めてしまいたいと思うぐらいに世界は動こうとはしなかった
『何か、変化でもありゃ良いのに…』
そう何気なく不満を口にした途端、白い世界に音が生まれた
不快とも思われる嗚咽混じりの声を上げて泣き出した自身の音。自分が発しているのではなく、夢の世界で生きる自分が声を上げて泣いている…まるで泣き止むという機能が元より備えられていないが如く
何で俺は泣いてるんだろう…
耳を塞ぎたくなる程に泣き声は谺し、その度に世界が震える。泣き止んでくれないかと声に出そうにも響く嗚咽混じりの泣き声に容易く掻き消されてしまう
涙を流し、必死に手を伸ばす自身の姿はどうにも気分が悪くなる。それでも手を伸ばし、何かを掴もうとしている様を見れば何かを失ってしまったのではないかと思えた
何を失って、そんなに辛いんだ…
藻掻き苦しみ、伸ばした手は無情にも何かを掴む事なく幾度も地に落ちる。無意味だと言うのに同じ事を繰り返す程に大切な何か…見下ろす自分にはそれが何かを理解する事は出来ない
俺がそんなに失いたくないものって…
『亮ちゃん』
『っ』
不意に呼ばれた名前に一瞬にして目が覚めた。元より夢と現実の曖昧な境に位置していた自分が目覚めるのに対して時間は掛からなかった
『凄く魘されてたよ…』
『ナマエ…』
酷く悲しい夢を見た…屋上の特等席、ナマエの膝の上に頭を乗せ、心臓は未だ収まる事なく速度を速めて動く。
『亮ちゃん』
『ん、どうした…』
聞けばナマエは困った様に、加えて少しばかり恥ずかしそうに笑い左手を上げる
『あ…』
いつの間にかナマエの手を強く掴んでいた。自分でも無意識だったのか、まるで夢の中の自分が必死に何かを掴もうとしていたかのように…必死に伸ばした先にナマエが存在していたのだろうか…
『怖い夢、見てた…』
『怖い、夢…』
ゆるゆると力を弱めナマエの手を解放する。その手をそっと上にあるナマエの頬へと滑らせれば幾分か気持ちが落ち着くような気がした
『何か凄ェ大切なモンを失う夢…大切で大切で、でも……。だから俺は失いたくなくて必死に藻掻いて…』
手を伸ばした先にナマエがいて、その手を掴んでいたんだ…
『そっか、分かった…』
藻掻く程に大切で失いたくない、失えば悲しくて涙が止まらなくて気が狂いそうになる程大切なもの、それは…
ナマエ、お前なんだ…
(夢で良かった)
いつまでも君を大切に…
(失えば終末)
091202めぐ
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