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100306〜100522





春の匂いが、俺を惑わせる…




今年は暖冬だったからか、卒業式には桜が満開だった。前日の雨で散ってしまうのか、教師陣の中には放課後まで桜を眺めている人もいたけれど…正直、俺は散ってしまえば良いと思っていた。


そんな俺のちっぽけな願いなんざお天道様に聞き入れて貰えるなんて事はなく、快晴な上に満開。そんな桜を背に、今年も何十人もの生徒がこの學園を去る。


『この後どうするかなァ』


『どうするって…打ち上げですよ先生』


隣で苦笑いを浮かべるこの人は、俺より1年先輩の、専攻は英語の先生。普段から俺の面倒を良く見てくれて、今年なんかは3年生の担任をお互い任された。謂わば、運命共同体。更に謂えば彼女もまた、桜が散らなければ良いのにと願っていた心優しい教師の一人だ。


『まァ、そうなんですけどね』


打ち上げなんか、どうせ一年経ったら同窓会とか開くんだ。今やらなくたって何の問題もない。俺の金で焼肉食って、最後は湿っぽくなる。肉の油臭い中、涙を流せる若者の感覚が今一つ分からないし、そんな空気は御免被る。


『先生は何だかんだで人気者だったんですから行かないと』


彼女はそんな若者にすら優しい訳で…羨ましい。もう数年、俺は教師として生きているけれど、生憎俺は彼女のような生徒想いな人間にはなれないでいる。これが一年後輩である俺と彼女の差ならば、埋まらなくても良い。


『人気者ってより、他の先生方に比べて緩かっただけですよ』


そんな事を言う彼女だって、学年問わずの人気があった。恐らくそれは彼女が気付かない内に出す優しさや大人の女性としての色香。隣にいる俺だって、気を抜いたらいつ関係を崩してしまうか分からない程だ。


『うちのクラス、先生のファンクラブとか在ったみたいですよ』


『ファンクラブ、ねェ…』


親衛隊みたいなモノなのか、一体その組織がどんな活動をしているかは知らないし興味がない。今時の女子は思想が怖い。交友関係だろうがファンクラブだろうが、とにかく組織立った輪に所属していなければ、まともな生活すら送る事が出来ない…まるで悪質な宗教団体だ。


仮に、俺のファンクラブがあったとしても、俺には関係ない


『俺はそんな事より退任される先生のお見送りに行きたい気分なんですけどね』


どうせ湿っぽい別れなら、俺は今日この學園を去る彼女と湿っぽさを分かち合う方が賢明だし本望だ。


何故なら俺は彼女に尊敬の念だけではなく、若者が抱くような甘い気持ちを抱いているから…


『そんな…気にしないで下さい。』


『気にしますよ、先生には色々世話になりましたし』


彼女は今日で學園を去る。教師という職業は継続するらしいが、それはこの學園ではなく別の學園で。


俺は、今時の若者なんかよりずっとずっと質が悪い。あいつ等の恋愛感覚ときたら、いつかまた会いましょうで終わるのが80%を占める。それに対して俺はいつかまた、なんて考えた事もない。


『その気持ちだけで十分ですよ。それよりクラスの……』


先生、貴女が面倒を見てくれた半人前の教師は


実は唯の男なんですよ


『俺、一緒に行っちゃ駄目ですか』


『先、生…』


座っていたパイプ椅子から立ち上がり、距離を詰めれば心底驚いた彼女がいて、俺はそんな彼女の表情すら男を惑わせるモノでしかないと感じる。


『好きなんですよ、先生の事。』


『あの…そんな行き成り…』


彼女の背後にある窓からは、ひらひらと舞い落ちる無数の瓣。彼女との別れを示唆する桜は、彼女の様に美しいものだった


『俺を連れて行って下さい…って言うか攫って良いですか』


桜が出会いや別れを意味してたとしても関係ない。


俺は、貴女との継続を望んでいるのだから…


















(大人の恋をしようか)


大人は強引で自己完結だから




(桜雨)

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あきゅろす。
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