2 何も見えない、確かに外は夜だった。だけど月も星も何もない、何も見えない世界にあたしは一人居た。ソラとヴァニタスの元へ駆けた迄は覚えている。だけどその後、何があってあたしはこんな所にいるのかが思い出す事は出来ない。 『ここは光と闇の狭間の世界。今は、均衡が取れていないけど…』 『ナミネ、さん…』 姿を確認する事は出来ないけれど確かに頭に響くのは彼女、ナミネさんの声だった。 『ソラは、ヴァニタスはどこに…』 『ちゃんとナマエの目の前にいるよ。唯、ソラは闇に包まれて触れる事は出来ないけど』 ソラとヴァニタスが近くにいる。目を凝らしても姿は捉える事は出来ないけれど、感覚を研ぎ澄ませれば二人の微かな気配を捉える事が出来る。だけど静かなこの世界に二人の声は聞こえない… 『ナマエ、ソラを救えばヴァニタスはソラに取り込まれる。ヴァニタスなら世界が終わる。貴女はどっちを選ぶの』 『そんなの…』 そんな事、答えは決まっているようなものだ。 『あたしは最後の一人になったとしても、二人を同時に救う方法を探す』 もしここにソラが居たら、きっとそう言っているに違いない。あたしでは暗闇を照らす光にはなる事が出来ないかもしれない。だけど二人を救いたいという気持ちはあたし一人だけじゃない。カイリちゃんもリクも、ロクサスさんもヴェントゥスさんもきっときっと、二人を救いたいと願っている筈だから… だから… 『ソラ、ヴァニタス…っ』 皆の想いが、あたしの想いが届いているのなら 『ソラ…ヴァニタス…ッ』 お願いだから、ここから…この、暗くて寒い闇の中から皆で帰ろう…そう強く願っても、暗闇が晴れる事はない。ソラの光だって強いけれど、ヴァニタスの闇だって強い。二人の力が安定しなければ先はない。あたし達が祈ったところで、 『ナマエ』 『…っ』 すう、と頬に触れた冷たい感触。ソラなのかヴァニタスなのか、姿を捉える事は出来ないけれど、この冷たさは、これ程までに心を凍らせているの人物を、あたしは一人しか知らない… 『ヴァニタス…っ』 ソラやヴァニタス、ナミネさんの姿が見えない闇の中で確かに触れた感触に心底安心した。ヴァニタスがすぐ傍にいる事に安心するなんて今までだったら考えられない。だけど、彼の持つ心の闇を理解したあの日から、あたしはいつしか彼が持つ闇に嫌悪感を抱かなくなっていたのかもしれない。 『時間がない。あいつを…ソラを助けたいんだろ』 『違うよヴァニタス…あたしは』 言い掛けた言葉はヴァニタスの手によって塞がれた。この先は言うなと、静かな沈黙が物語る。時間がないと、何に対する時間なのかは分からないけれど、あたしが黙って頷くとヴァニタスはあたしの口元から手を離す。 『帰してやる。お前達を』 『そんな事、出来るの…』 今度はヴァニタスが頷いた。帰れる事に越した事はない。だけど、 『ヴァニタスも…ヴァニタスも一緒に帰れるんだよね』 『ああ…』 ぶっきらぼうな言い方だったけれど、3人で帰る事が出来るのなら他に問題なんてなかった。誰も消える事なく融合を終えて、キングダムアイランドに帰る事が出来る。その他に何を望む事があるのだろう 『今から強制的に俺の闇を鎮める。だから、お前は望めば良い…帰りたいと』 『そんな簡単な事で良いの…』 有り得ない事を望むのだから、もっと難しいものだと考えていた。唯望めば良いだなんて、子供みたいな事。たったそれだけで全て終わるだなんて都合が良すぎる。 『望め、ナマエ。お前を死なせやしない』 疑問はあった。だけれどゆったりとあたしの頬を撫でるヴァニタスに、あたしは唯一つ頷いた。これしか方法がないのなら、やるしかないのだろう、と… ←→ |