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シオンさんやラクシーヌさん達天女のように上手く舞う事は出来ないけれど、楽しいと想う気持ちがあたしの身体をリズムに乗せてくれる。楽しい気持ちの裏側には、ソラが踊っている間ずっと、手を繋いでいてくれたから。
『つっかれたァ…もう踊れないっ』
『あたしも。パーティーがこんなに楽しいなんて思わなかった』
ダンスと人の多さで火照った身体を冷やす為にあたし達は庭に出た。庭に噴水があって、そこをぐるりと囲む縁石に腰掛ければ冷たい霧が火照った身体を冷やしてくれる。こんなに気持ち良い汗を掻くなんて恐らく初めてではないだろうか。それぐらい楽しい時間は本当に一瞬のようで、あっという間だった。
『有難う、パーティーに呼んでくれて』
『え、あ……うん』
素直に、心から楽しいと思わせてくれた事にお礼を言ったのに、隣に座るソラはあたしの言葉を聞いた瞬間にバツの悪そうな顔を覗かせる。ソラは本当、嘘を吐く事が出来ない。その表情は何かあたしに隠している事があるのだと、瞬時に理解する。
『ソラ。あたしに何か内緒にしてる』
『いや、その…隠して…は、ないけど…』
まるで檻に入ったうさぎを虐めている気分だけれど、それはそれ。無理矢理言わそうとは思っていないが、どこか言わなきゃいけないという素振りをソラが見せるのだから、あたしだって聞かなければならないのだろう。
『あの…』
『言い難いなら、俺が言ってやろうか』
一瞬にして、空気の流れが変わった…
『ヴァニタス…』
『なァ、ソラ…』
夜風を受けながら、あたし達より少し離れた位置に立つヴァニタスが近付いて来る。以前はヴァニタスの気配に恐怖心を抱いていたのに何故だろうか、彼が目の前に現れる度に胸が苦しくなる。勿論、恋をしているからという甘い苦しさではない。痛くて、悲しくなるのは恐らく、彼の抱く切ない想いを知ってしまったから。
『ソラ、お前は…闇が怖いか』
『………怖い。人を傷付ける闇なんて大嫌いだ』
ヴァニタスの問い掛けに、ソラは数拍間を空けてから答える。素直に、以前ヴァニタスに対して嫌悪感を抱いていたソラではなく、真っ直ぐにヴァニタスを見詰めて答える。本当は、闇の根源であるヴァニタスが怖いだろうけれど、それでもソラは目の前のヴァニタスから逃げようとはしない。
このソラの態度があたしに囁かな確信を与えてくれる。
『ソラ…もしかして…』
『俺もな、光が…お前が嫌いだよ。あいつを失ったの事が、俺の中から光を完全に消し去った。』
あたしの言葉を遮って、ヴァニタスは言葉を続ける。真っ直ぐに互いを見詰める二人から互いの定めを受け入れる覚悟が窺える。
『だけどな、失っても…俺が闇の根源だろうと、俺にだって護らなきゃならないモノがある』
三角形の位置に立つあたしは二人の様子をじっと見詰める。何も縛るものなんてない筈なのに動く事は出来ない。まるで、予めあたし達の位置が決められていたかのように、あたし達は自分の立つ位置から動く事はなかった。
『約束を、あいつとの約束を守るんだな…ヴァニタス』
『やっぱり…今日なんだね、ソラ』
風に乗って聞こえて来た声が二つ。ロクサスさんにカイリちゃん。その二人の後ろにリクが立っている。約束、今日…二つのキーワードが繋がって、小さな確信が確かなものに変わる。急に決まったパーティーの日取り、会場にヴァニタスが現れた事、二人の覚悟を決めた瞳。それは、もしかしたらこの世界が巡り合わせた必然であって、避ける事は出来ないのかもしれない。
『融合、するんだね…』
『もし俺が消えたとしても、楽しかったって気持ち、忘れたくないから…』
あたしの問い掛けにソラは目を伏せて頷く。ソラが黙っていた事に憤りなんて感じなかった。カイリちゃんの為と言っていた、恐らく半分はカイリちゃんの為でもあるのだろうけど、どうなるか分からない融合というこれから起こる事象。全ては、何も分からない未来の為に出来る今という思い出。
『出せよ、ソラ…』
『……』
ヴァニタスの手には黒い闇を纏った剣の様なものが握られていた。悪魔の翼のような、不気味な形。あれが融合に何の関係があるのか、分からないけれど…
『ヴァニタス…俺にも護りたいものが、護りたい人達がいるんだ。だから…っ』
ソラが右手を前に翳した瞬間、右手を覆うように白い光が集まって来る。小さいけれど暖かい、どこか安心させてくれる光。その光がゆっくりと形を作り出すとソラはそれを両手で掴んでヴァニタスに向けて構える。
光を纏ったそれはヴァニタスが持つような剣に似た形ではなく、大きな鍵を形作る。これから何が起こるのか分からないからこそ、二人から目を離す事が出来なかった。
『さあ、始めよう…融合を』
『行くぞ、ヴァニタス…っ』
互いに正反対の光を纏い、互いのもつ鍵と剣を真っ直ぐに向ける。
そして、二人の融合が今始まる…
(Scutellaria undicaL...)
あたし達は皆、誰かの為に…
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101129めぐ
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