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Gappy


(街角Twilight-6-)
珈琲が覚める、そんな熱さ




ナマエが王国荘に来てから早一週間。生活にも環境にも慣れ始めたとある日の朝。


『ナマエ、お弁当有難うね』


『うん、気を付けてね。あ、ロクサスお弁当…っ』


ナマエ、シオン、ロクサス…同じ年齢である3人。然しながらナマエは学校に通っていない。理由は至極簡単、シオンとロクサスの通う高校は王国荘近辺にあるものの私立高校。そこ以外に通える距離の学校はなく、ナマエには私学に通える程経済面が豊かではなかった。


ならば学校に通うよりも王国荘に格安で住まわせて貰う分の家事を熟しアルバイトをすべきだろうとナマエは王国荘での家事生活を選んだ。


『あ、忘れるところだった…っ』


『今日はロクサスの好きなおかず詰めたからね』


多くを語りはしなかったが王国荘に住む前はナマエは一人暮らしをしていた。家事全般は勿論、料理も難無く熟すナマエの作る弁当をロクサスは受け取ると礼を言ってシオンと共に王国荘を後にする。


『ふう…さて、と。まずは…』


朝起きて幾つ目かの仕事、シオンとロクサスを無事送り出す仕事も終わり、ナマエは一つ息を吐く。なるべく早い内に家事を出来る限り終わらせる事が出来れば自分の時間を持つ事が出来る。早速次の仕事に取り掛かろうと玄関に背を向ければ廊下の少し先に位置する扉が一つ動いた。


『あれ、ナマエは学校行かねェの』


『あ、お早うございます』


眠たそうに目を擦り現れたのはデミックス。数年前に高校を中退した今では一日を略王国荘で過ごしている。


始めの内こそ突然の告白やデミックスを引っ叩く騒動があったものの、一週間経った今は至って平和。強いて言えばデミックスにだけは何故か中々敬語が抜けないぐらいであった。


『…敬語。要らないって言ってんのになァ…』


『あ…ごめんなさ……ご、ごめん』


何故自分にだけ未だ敬語が抜けないのかとデミックスは少しばかり不服そうな表情を見せる。またやってしまったと、慌てて言葉を直せばデミックスは満足そうに笑い


『うん、よしよし』


まるで子供をあやすかのようにナマエの頭をがしがしと力強く撫でた。


嫌じゃないけど…何て言うか、慣れないなァ…


撫でられる事もデミックスの事も嫌いではない。ナマエやシオン、ロクサスの頭は調度撫で易い位置にあるとアクセルも言っていた。アクセルに撫でられれば子供扱いして、と口を少しばかり尖らせるのだが、何故かデミックスに撫でられると落ち着かなくなってしまう。


良く分からない自分自身を振り払うようにナマエは朝食後のリビングへと向かった。


『学校行かなくて良かったのか』


『うん…行きたかったけど、仕方ないかな…って』


デミックスの分の朝食を机に並べ、使用済みの食器を重ねる。その隣ではデミックスが朝食を摂り、先程途切れてしまった会話の続きが二人の間を行き来している。


『俺は行きたくなくて辞めちまったけどなァ』


確か退学したのは高校1年の途中。朝起きた瞬間に辞めようと思い、その日の内に退学届けを出したのだとデミックスは告げた。普段は何をするにも怠けてしまうが、勢いで辞めてしまうとは何ともデミックスらしい、とナマエは小さく笑った。


『毎朝早起きとか、授業とかさ…思い出すだけで怠い』


『あはは…確かにデミックスは苦手そうだもんね』


ナマエがそう言って笑えばデミックスもそうだろと付け足し、頷いて笑う。少しの間だけでも通う事の出来たデミックスを羨ましくも思えたが、学校に通わずこうした日々も悪くはないと思える。


『そういえばデミックスは普段何をしてるの』


ナマエのように家事全般を熟す訳でもなく、思えばこの一週間は特に目立った外出もなく毎日家にいた。大学院に通うアクセルや、高校に通うシオンやロクサスとは違う毎日を過ごすデミックスの一日はどのようなものなのだろうと机を拭きながら、ナマエは口を開いた。


『そうだなァ…寝て起きて、だらーっとして、何かしようとして面倒臭くなって…寝てる』


『…』


考える素振りを見せたデミックスに一瞬、何か特別な事をしているのかと期待したナマエはがっくりと肩を落とした。考えればデミックスが何か特別な事をしているのだと期待する方がおかしいのかもしれない。


『あ、でも最近はナマエが家にいるから起きてる方が多いな』


そういえば昨日、早起き記録更新だとデミックスがシグバールに言われていた。早起き記録が6日…自分が来る前はどれ程怠けた生活を送っていたのかと疑問に思うのも無理はなかった。


『じゃあナマエが王国荘に居たら、デミックスは毎日起きれるね』


『おう、ナマエの為なら3週間…いや、2週間は連続早起き出来るかもなァ』


からからと喉を鳴らして笑う。一週間デミックス達と生活し、何故これ程までに心底楽しそうに笑うのだろうかと不思議に思う程、デミックスは毎日笑う。時に頼まれ事をされれば面倒臭そうな表情を浮かべるのだが、自分と話す時は元より顔の形がそうであるかの様にデミックスは笑顔を浮かべていた。


なんか…やっぱり変な感じ…


どこか胸の奥に引っ掛かるものがある。思い出そうとすればそれは奥に引っ込んでしまうのだが、そこに残り香を残すかのように懐かしさがナマエの胸を占め、不思議に思う事がある。


『ねェデミックス…あのね、変な事聞くけど…』


勘違いならば特に気にする事もない。然しながら、矢張り気になれば聞かずにいられる訳もなく、ナマエは言い難そうに口を小さく開ける。一方のデミックスは囓る度にぽろぽろとパン屑を落としながらナマエに視線を向けた。


『ナマエとデミックスって、どこかで会った事ないかな…って…』


具体的にいつどこで会ったのかは分からない。街中のどこで出会ったのかもしれない。然しながら擦れ違いのような温い出会いではなく、少なからず関わった事があるような、淡い何かがナマエにはあった。


『どうだろうなァ…ナマエみたいな可愛い子に会ってたらまず覚えてるけど』


『そっか…じゃあやっぱり気のせい、かな…』


やんわりと否定されればどこか残念そうに笑うナマエ。確かにデミックスの温もりや匂いを自分は知っていると言い切る事が出来る。然しながら言葉に出す事が出来る訳ではなく、喉の奥で止まってしまう。


そんな残念そうなナマエを見るとデミックスは雰囲気を変えようと言葉を探す。実のところ、ナマエに出会った記憶は微塵もなかったのだが、ナマエの表情を見れば自然と言葉を探してしまっていた。


『どっかで会ったかも、じゃなくてさ…今一緒にいるんだからどうでも良いじゃん。俺難しく考えんの苦手』


『デミックス…』


その言葉はナマエの心を穏やかにするには十分の言葉であり、ナマエは微かに笑って頷く。


でも…もっと、近かった様な気がする…


今一緒にいる…そう言われて矢張りどこか違和感を感じてしまう。悩む表情を見せまいと必死に取り繕おうとするも何故か身体を動かす事が出来ず、肩を抱かれているのだと気付くや否や直ぐ傍にはデミックスの顔…


『本当はもっと近付けたら良いなって思うけど…』


『あ…だ、駄目…っ』


口端を攣り上げ笑うデミックスの胸を押すも全く微動だにしない。一週間前を思い出してしまう程に近い距離は一週間前よりも近く、ナマエは顔を真っ赤に染め上げた。


『やだ。…って言ったらどうする』


『っ…』


触れてしまう…


あの時は条件反射で引っ叩いてしまったが今回は手を伸ばす余裕すらなく、どうする事も出来ない。もう駄目だときつく瞳を閉じた瞬間…


『お、何か良い雰囲気じゃねェか。』


『おま…っ折角の雰囲気を……ッ。』


ナマエの直ぐ後ろで聞こえた声にナマエが勢い良く振り返ると、その先にアクセルを見付ける。まさか自分達の他に住人がいるとは思わず、アクセルに見られていたと思えば顔中に熱が昇ってしまう。


『んな見える場所でいちゃつくお前等が悪い』


『い、いちゃついてなんか…っ』


ナマエをからかう様に笑うアクセルに否定する言葉を投げ掛けてみるが、誤解されてしまっても無理のない現場を見られてしまえば説得力はない。アクセルは愉快気にナマエ達を見詰め、照れちゃって可愛いねェとまるでシグバールの如くからかった。


『もうっ…そんなんじゃ…』


『はいはい。あ、俺にも珈琲くれ、砂糖はなくて良いから』


慌てふためくナマエの頭を撫でて宥め、隣を見ればナマエに煎れて貰った珈琲に大量の砂糖とミルクを入れようとしているデミックス。アクセルにさり気ない嫌味を言われ、デミックスは不貞腐れたように注いでいた砂糖とミルクを机に置く。


『俺も砂糖要らねー』


『え…珈琲煎れ直すのデミックス…』


並々ならぬ量の砂糖とミルクが注がれた珈琲を見、焦るナマエとその言葉に吹き出したアクセルの姿が朝の一時に在った
















(今キスしたら絶対に甘い)


だけど触れてはいけない何か





(Gappy)


















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091218めぐ(訂正100330)
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あきゅろす。
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