.
(ツンデレ不成立)
おかしいな、今日は上手く隠せない
さっきまで他愛もない話を続けていたというのに、旦那が来た途端にナマエと言ったら本当、ちゃっかりしている。
『あー…無性に甘いものが食べたい』
『……』
現れたナマエの旦那、基彼氏である円は疲れ果てた表情のまま、3つの紙袋をぶら下げている。相変わらず円はモテるようで、街を歩けば誰もが振り返る程美人なナマエが彼女なんだから、そこら辺は流石円って感じだけど。完全にナマエの尻に敷かれているのだから面白い。
『や、さっすがイケメン円君っ。甘い物嫌いな彼氏がいて助かるわァ』
『ナマエ、彼氏のチョコ横取りするの止めなさいよ』
紙袋の中身は今日が2月14日だと言えば勿論大量のチョコな訳で。甘い物嫌いな円にとって、そのチョコ達は行く当てがない。昨年までは彼女達の気持ちを無駄にする訳にはいかないと、目に涙を溜めつつ食していたけれど、
『だって、円甘い物嫌いだもん。このまま廃棄なんてチョコが可哀相よ』
昨年のバレンタインで熱烈な円ファンに貰った媚薬入りチョコを食べてナマエを襲って以来、チョコをナマエによって取り上げられた。円も何だか肩の荷が降りたような気もするけれど、
『円ってばちょっとお気の毒…』
『そう思うならバレンタインなんてイベントをなくしてくれ』
溜め息混じりに椅子に座ると、隣のナマエに大量のチョコが入った紙袋を丸々3つ手放した。
『そういやナマエは円に何かあげたの』
『んーん。だって円甘い物嫌いだし』
チョコを受け取ったナマエは一番上から一つ取ると早速包みを開けて一粒口に入れる。今更だけどナマエが円に何かするなんて聞いた事がない。まあイベント好きなナマエの事だから、何かしらはしてるんだろうけど、そんな話をナマエは一つもしない。
『別にバレンタインだからって甘い物に拘らなくても良いじゃない』
『円欲しい物言わないし』
だけどもし、本当に何もなかったらそれこそ本当に可哀相。折角のバレンタインだというのに本当に何も準備していないのはナマエの態度から明らかだった。
『ナマエが居れば十分、とかだったりねェ…』
普段はナマエと一緒になって円をからかう側にいるけれど、流石に今日は円側。円を試すように茶化した振りをするけれど、バレンタインに彼女から何もないというのは流石に、ね。
『ちょ、ちょっと何赤くなってんのよ馬鹿円っ』
『あ、赤くなってなんか…ないですよ』
あたしの言葉は円にとっては図星だったようで、クールが売りの整った顔が焦って真っ赤に変わる。心無しかナマエの顔まで赤くなっているのはあたしの気の所為なんかじゃないでしょう。
『二人共顔真っ赤よ』
『鏡子、からかうな』
笑ってそう言えば二人の顔が更に真っ赤になる。何だかんだこの二人、素直に互いの気持ちを伝える事が出来ない不器用な似た者同士なんだから、世話が焼ける。咳払いをして誤魔化そうとする円だけど、今日ぐらい素直に欲しがるべきだとあたしは思うから、
『だって円、本当にチョコよりナマエって思ってんでしょ』
留めの一発を噛ますと、円がたじろぐ。あたしがしてあげられるのはきっとここまでで、後は二人の反応を見るだけ。
『何言ってんのよ、円がそんな………って、円、』
『…俺だって男なんですから、仕方ないじゃないですか』
真っ赤になって黙った円にナマエが照れ隠しに言うけれど、円は顔を真っ赤にしてぼそぼそと呟いた途端に照れ隠しが一転、隠せない程にナマエの頬が真っ赤に染まる。それはもう、チークだなんて言い訳出来ない程に。
『へ、変態っ。円の変態ーっ』
そういうナマエの下着が今日は特別可愛い事を、あたしは知っている。
(だってバレンタインだもの)
どうぞ貴方の好きにして
…………………
110201めぐ
…………………
無料HPエムペ!