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(苦いのがお好き)
それを知るのは彼女だけ




義理チョコだと渡された、その包みは全て同じで、本命がどれかも分からないままトリュフを口に入れて思わず噎せそうになったところを何とか堪えた。


『ナマエのチョコ、苦いね』


『あ、ごめん…それ京一のだっ』


俺の一言にナマエは焦り、急いで手に持っていた一つと交換する。成る程、対して甘いものが好きではない京一にはぴったりな甘さ。普段喧嘩ばかりな京一と幼馴染みのナマエは流石、京一の好き嫌いも承知している。


『ち、違うよ。ほら、一応幼馴染みだからあげなきゃ駄目って言うか…っ』


特に何も言っていないけど、という意地悪は止めといた。何せ今日はバレンタインだ。下駄箱で同じクラスの女の子にチョコを渡され、京一に聞くまで忘れていたけれど、今日は女の子にとっては一大イベントなのだ。


『京一、下級生には人気だからね』


『べ…別に関係ないしっ』


からかうと必死に否定する。ナマエは素直じゃない。分かり易い反応はある意味素直と言えるかもしれないけれど。何か言おうとしたところで見知った赤茶の髪を見付けたけど、この先のナマエの反応が面白そうだったから、気配を感じながら目線はナマエから外さずに間を置いた。


『大体、京一……』


『おう、俺がどうし………どうしたナマエ』


ナマエの背後から現れた京一にナマエは心底驚いたのか、悲鳴も上げずに腰掛けていた椅子ごと大きな音を立てて床に落ちる。期待通りの反応を見せてくれるナマエを少し気の毒に思うも、そんなナマエだからこそ面白いと悪戯心が言う。


『ちょっと躓いただけっ』


『ったくドジだなお前は、…って龍麻、お前やっぱりモテるよなあ』


必死に言い訳をするナマエを京一も悪戯っぽく笑う。それから先程俺がナマエから貰ったチョコと机に置かれたチョコを見て、京一は恨めしそうに言う。そういう京一だって手には幾つかのチョコを手にしているのだから下級生人気は本当に高い。京一こそ、と言えば京一は待ってましたと言わんばかりにチョコの一つを手に取って、モテる男は辛いよなァと満足気に笑う。


『本当、何が良いんだか』


『なんだよナマエ』


それを見ていたナマエは大袈裟に溜め息を吐いてうんざりという言葉そのままの表情を浮かべる。チョコを貰った瞬間の余韻に浸っていた京一はそんなナマエの表情を見るなり、面倒臭そうに言う。この二人と居ると何かに付けて喧嘩に巻き込まれそうになる。今だって何かをきっかけに喧嘩が発生しそうな勢いだ。


『毎年毎年、あんたに苦いチョコ作るあたしの身にもなりなさいよ』


『おっ、やっぱりチョコはお前がくれるやつが一番美味ェよ』


ところが流石今日は女の子の一大イベントというべきか、喧嘩になりそうな雰囲気を元に戻したのはナマエの一言と京一に突き付けられた包み。勿論、俺が一粒食べたなんて京一には内緒だった。満更でもないのか毎年お約束なのか、京一もその包みを受け取った途端、先程とは比べものにならない笑顔を見せた。


『ばーか。苦いチョコ作ってくれる彼女を早く見付けなさいって言ってんの』


照れながらも京一の笑顔はナマエにとって今日一番の思い出になるだろう。照れ隠しの言葉も今一効いていない辺りが俺にとっての見所でもある。


『ナマエ以外にこれは作れねェって』


『…本当、馬鹿』


相思相愛だと思うのはきっと、俺だけじゃない筈だ。


















(幼馴染みには良くある話)


本当、早くくっつけば良いのに、ね



















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20110201めぐ
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あきゅろす。
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