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積もり、募る(オリジナル)






寒くて、寒くて…会いたくて…






『寒…』


煙草が切れて、スウェットにダウンを羽織って近くのコンビニまで出掛けた。この道はあたしと春が手を繋いで歩いた道…もうその手は離れてしまったけれど、2年経っても頭の奥に残る映像


良く、学校の帰りに肉まんを買って駐車場で並んで食べた。春は肉まんの他にブラック珈琲を買って、あたしは苺オレを買って…甘いモン飲むなんてまだまだ子供だって、頭を撫でてくれた。春が好きなブラック珈琲は、あの時は苦くて飲めなかったけど今では何かの慰みなのかオトナになったのか、煙草に珈琲は今では欠かせなくなってしまった


『420円です』


店員も昔と変わってあたしと同じ年かそれより下か、昔バイトで働いていた人が格好良いってあたしが言うと春は俺の方が数倍格好良いって怒って、でも春の方が好きだよって付け足すと恥ずかしそうに笑った


あの時の春の笑顔が未だに頭から離れない


春の笑顔だけじゃない、春の全てが頭の中に記憶されてる


『未練たらしいな、あたしは…』


春はこの町から出て行ってしまった。夢があったから違う大学を受けて、その大学に行ってしまった。反対した、勿論…だけど春の夢はあたしから春を奪う結果になってしまった。


『桜、ごめんな』


そう言ったっきり2年…所謂自然消滅。2年も経てばあたしは携帯を変えて、番号も変わりアドレスも変えてしまったから連絡手段は家の電話と住所だけ。あたしは、それでも春があたしを想ってくれているのなら家に何かしら連絡をくれるものだと思っていた


『馬鹿…大嫌い』


春との道を今はあたし一人で歩く。手を繋いで歩いた道を、今はダウンのポケットに突っ込んで歩く。ふと見上げればそこは春の家で、路上から見える春の部屋に明かりはない。当たり前なのに、春がもしかしたら帰って来てるんじゃないかって期待してしまう自分が馬鹿みたいで


『春、まだおめでとうもさよならも…言ってないんだよ』


卒業式は受験の日だからって、春は卒業式には来なかった。春にはずっと会ってない。会おうと思えば会えたんだと今更思うけど、会いたいとは思えなかった。会えばきっと、あたしは春に行かないでと言ってしまったから


風の噂で合格したと聞いたのは卒業して1年後の同窓会。春は来なかったけれど、春が受かったと聞いて安心した


『だからあたしも、断ち切らなきゃ…ね…』


春の部屋を見上げるのも、珈琲に依存してしまうのも春と食べた肉まんを買えなくなってしまったのも…全部全部卒業しないと、いつまで経っても前に進めない


いつまで経ってもあたしは春の帰りを待ってしまうから


『春、有難うぐらい言わせてよ…』


もう帰って来ないなら、あの時に振ってくれれば良かったのに。


『春…まだ好きだよ…』


もう帰って来ないのなら…お願いだからもう、あたしを縛る思い出全て段ボールに詰めて持って行って…


火を点せばいずれ灰となる煙草みたいに、思い出も消えてくれたら良いのに


















(舞い落ちるのは雪か涙か)


どっちも冷たい事に変わりないけれど





(積もり、募る)


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