return(王国心空)
どこに、どこに行ってしまったの…
闇の回廊、きっとこれが最期。
向かう先は一つしかない。
暗闇は落ち着かない。
だけどあたしには光があった。
あった、筈だったの…
『ソラ……貴方が、ソラ…』
『誰だッ』
ああ、面影が彼に似ている。
あたしの大好きな仲間、大好きなロクサスにとっても似ているの。
『お前…13機関…っ』
『そうだよ。13機関…』
もう、一人になってしまったけれど…。仲間は皆、光の勇者に奪われたから。
『貴方が倒して来た13機関の…仲間』
『っ…』
ねェ、分からないでしょ、大切な仲間がもう帰って来ない寂しさが。
分からないよね、全て手に入れている貴方には。
『ねェ、貴方が光の勇者なら…勇者なら闇を全部屠っても構わないの…』
『俺は…』
光の勇者、なんて…結局は闇を悪として消滅させてしまった、犯罪者と変わらないんだよ。
『あたしは…あたしは13機関が大好きだった』
大好きだった、皆の事。近寄り難い人も、気難しい人もいたけど、悪い人達じゃなかった。一緒に心を探していた、大切な仲間だった。
『大好きな、人がいたんだよ』
何より、あたしには彼がいた。闇を晴らす、光の様に温かくて、優しい彼が。
『…まだ、死んだ方が良かった……』
『っ、うあ…ッ』
放った力に、容易く飛ばされてしまう彼が光の勇者だなんて笑ってしまう。
ああ、態と飛ばされたのかな…
貴方は、優しい優しい光の勇者様だから、あたしに優越感を与えてくれているのかな
『死んで、消えてしまった方が貴方に容赦なんかしなかった…』
尤も、あたしに残された力なんて僅かで、彼のキーブレードであっさり消滅させられてしまう程だけれど。今立っていられるのだって、恐らくは仲間への執念だけ…
『…返して……』
『え……』
返して…あたしの心を…
驚いた顔を見せる光の勇者が憎らしい。貴方が喜んでいるその陰で、また一人仲間が消滅して悲しんでいる誰かがいる事に気付かない、そんな貴方が憎らしいよ
返して、返して、あたしの心
『あたしのロクサスを返して…っ』
『…ッ』
やっと見付けたの。やっと気付いたの。あたしの心は他でもない彼、ロクサスだったの。
『ロクサスは、あたしの心なのっ…あたしの全てなの…ッ』
いつもあたしを笑わせてくれて、あたしを助けてくれて…いつでも優しかった。光の勇者と一つになったって聞いて、それでも生きているって、それだけで嬉しかったのに…
『不完全だったら存在しちゃいけないなんて…そんなのっ、…酷い……』
ぼろぼろと、瞳から涙が溢れる。喉が熱くて、声なんて掠れて…声なんか出なくなっても良い。あたしがどうなろうが、そんな事今更どうでも良い。
ロクサスが、皆が帰って来てくれたら良いの…
『…ごめん……、っ』
『謝るなら、返してよ…ッ』
思い切り、頬を叩いたら、乾いた空に大きな音が響いた。
ねェ、痛いでしょ
でもね、ロクサスはもっともっと傷付いたんだよ
皆だって、傷付いた。
『…お願い…ロクサスを、みんなを返して…っ』
胸倉を掴んで、何度も何度も身体を揺さ振る。だけど光の勇者は何も言わず、唯あたしの顔を見詰めたまま動かない。あたしに笑いかけてくれていた、ロクサスに似た、その顔で…。
『……どうして…どうして、こんな事になっちゃったの……。唯、足りない物を探していただけなんだよ。それの何がいけないの…っ』
誰だって無くした物を探すでしょ。
足りない物があったら欲するでしょ。
あたし達は唯、心を探していただけなのに…
『あたしにはッ、…ロクサスが、心…だった…っ』
掛け替えのない、大事なロクサス。あたしの全てだったロクサス。
奪ったのは、貴方なんだよ
『ねェ…返して、よォ……っ』
崩れ落ちる身体が、ぎしぎしと痛む。
望んだのがロクサス自身だったとしても、光の勇者に非がなかったとしても。
抉る様にして切り取られた心が、涙となって悲鳴を上げた。
(光の勇者なら救ってみせて)
奪わないで、あたしの心
(return)
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