曖昧な視線(BASARA幸村)
(曖昧な視線)
当の本人達が気付かないだけ
『覗き…ですか…』
『そうなのよ、時折物凄い視線を感じてね』
炊事場で視線を感じる、庭先で人の気配がする、後ろから尾行されているような気がする…女中の間では近頃有名な覗きの存在に気付いていなかったのは自分だけだと、夕餉の支度中に知らされた。
『うーん…私には良く分かりませんが…』
元々気配には鈍いナマエ♀、どこか抜けていると毎日女中仲間に笑われていたが、ナマエ♀の言葉を聞いた女中の一人が放った言葉に意外にも落ち込んでしまったのがつい先刻。
『…はァ』
『どうしたのナマエ♀ちゃん、ナマエ♀ちゃんが溜め息なんて珍しいねェ』
屋敷内にある池の傍に腰を下ろし、溜め息を吐いているナマエ♀を見付けた佐助が声を掛けた事は言う迄もなく、一方のナマエ♀はそれ程大きな溜め息を吐いてしまっていたのかと自身に驚いていた。
『佐助様…私、それ程大きな溜め息吐いてましたか』
『そりゃ、城内に響くぐらいね。ってのは冗談で…俺様で良かったら聞くけど』
気持ちが沈んでいる時程佐助の親しみ易さは心を穏やかにしてくれるものであり、思わず話を聞いて貰いたくなってしまう。ナマエ♀にとっては大問題、佐助…否、男性にとっては然程問題にはならない出来事を話しても良いのだろうかと悩みつつ、ナマエ♀は知らず知らずに口を開いていた。
『その…近頃女中の間で覗きが多発しているみたいなんです。』
『の、覗き……ね』
視線のみ空を一周し、思い当たる節があるのか佐助は苦笑いを浮かべた。そう言えば先程、姿を懸命に隠して庭先を覗く彼がいた事を思い出す。
『はい。皆気付いているみたいなんですが、私は全然分からなくて…恐らく私は被害には遭ってないと思うんですけど…』
一旦言葉を切り、自身の胸辺りに手を重ねて伏し目がちに一呼吸。目を2、3瞬かせると意を決したかのように顔を上げてナマエ♀は佐助を見る。
『私、確かにその…身体は他の方と比べると……で、ですがこれからだと思うのですっ』
彼女の悩みは身体の事だったのかと、恐らく他の女中達に身体的にも幼いとからかわれたのだろうと理解する。
『胸の好みは人それぞれだけど、旦那は外見で惚れる男じゃないでしょ』
『ど、ど、…どうしてそこで幸村様のお名前が…っ』
『顔に書いてあるよ』
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