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必要なのは隣の存在

(必要なのは隣の存在)
それと、この距離




屋上の片隅、入口からは見えない位置に座り込む二つの影。グラウンドではお騒がせハンター、葉佩 九龍の笑い声と幾多の悲鳴が響く。この和やかさ、この緩みは何だと、屋上で身を潜める二つの影の内の一つ、皆守 甲太郎は思う。


『こ、来ないね九龍君』


数ヶ月前は生徒会役員全てが葉佩を敵視していた。力を酷使し葉佩を倒そうとした。それが今では全員が葉佩を慕っている。なんとも不思議な話だと皆守が身を潜めていると、隣からナマエの小さな声が聞こえた。彼女は生徒会役員でも何でもなく、八千穂や七瀬と同じくした一般生徒。ナマエと皆守は身体を寄せ、狭い隙間に身を屈めていた。


『安心するのは未だ早いぞ。あいつは鼻が利くからな』


『に…匂うかな…』


皆守が口に銜えたアロマパイプから甘い息を吐き出しながら答えると、言葉の意味を取り違えたのか、ナマエは制服の袖口を鼻に当てる。制服に染み付いたラベンダーの香りが鼻を掠め、ナマエはもう一度匂いを嗅ぐ。皆守から香るラベンダーの香りが自分の制服に染み付いている。それは則ち、それ程皆守の傍にいるという事なのだと、ナマエは場違いながらも幸せを感じる。


『あ、皆守君のカレーの匂いかな』


『…あほか』


くすくすと笑うナマエに冷めた言葉を返すも、皆守の口元は微かに緩んでいる。こうして自分が少しずつ素直に笑う事が出来るようになったのも、葉佩が天香學園へやって来なければ、或いは葉佩を通じてナマエと知り合わなければ有り得なかった。ナマエの笑顔を眺めながら、皆守は緩んだ口元から再び甘い息を吐いた。


『…それにしても、高校生になってかくれんぼ…。どうなんだか…』


『九龍君って楽しい事沢山思い付くよね』


ナマエと身体を寄せ合い、皆守はふと思い出す。抑、何故ナマエと狭い隙間に身体を入れているのか。破天荒で突拍子もない葉佩がいつもの如く言った、かくれんぼ。その一言で生徒会役員や葉佩と関係の深い者は皆集められ、鬼である葉佩から隠れる事を余儀なくされた。遊ぶにしても流石にかくれんぼは幼過ぎるだろう、と皆守が述べるもナマエの柔らかい笑みは崩れる事がない。


『…楽しい、のか…これ』


『うん、皆守君と一緒にいられるから…』


呆れたように皆守が溜め息を吐けば、ナマエは照れながら先程までよりも密に身体を寄せて笑う。周りから聞こえる生徒会役員の悲鳴も、徐々に遠くなる。ナマエが傍で笑い、身体を寄せて来れば周りの世界から一瞬にして遮断される。ナマエしかいない世界…そんな錯覚を覚える程、ナマエの存在はいつしか皆守の中で大きく膨らんでいた。


『…このまま、見付からなかったら良いのにな…』


『悪くは…ないか、』


皆守の肩に凭れ掛かるナマエの肩を優しく抱けば、甘い香りが二人を包んだ。


















(このままずっと見付からないなら)


ずっと、抱き締めていてくれますか



















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100610めぐ
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