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(天然フラグ)
立ちっぱなしで、愛連打の罠




今日は任務もなく、久しぶりにゆっくり出来るなと夕暮れに染まる校庭のど真ん中をのんびりと歩いていると、遠くの方…校舎から手を振る誰かの姿と声を拾った。


『せーんぱーいっ』


『お、誰かと思ったら忍者君』


あの距離から全力疾走しても、私なら15秒は掛かると思ったけれど、由緒正しき忍者の末裔である一個下の後輩、仁科 麒一は一瞬で私の前に姿を現した。恐らく、瞬きをしている間に。


『忍者君じゃないですっ。仁科 麒一ですっ』


私は彼を忍者君と呼ぶ。何か可愛い呼び方だから。桔梗ちゃんが呼んでいるのを聞いて、真似をするようになった。それを忍者君はとても嫌がっているのだ。


『んー…でもさ、桔梗ちゃんだって忍者君って呼んでるけど怒らないよね』


『ナマエ先輩は別なんですっ』


桔梗ちゃんだって呼んでいるのだから、私だって呼んでも良いのじゃないかと思う。桔梗ちゃんが呼んでも特に嫌がる事もないのに、私が呼ぶとナマエ先輩は別だと…


『良く分からないなあ…』


それが実際の本音。と、言うか本当に理解出来ない。私だけが別だなんて、何か納得いかない。ずば抜けて験力が強いとか、頭が良いとか、皆と違う部分なんて私にある訳がないのに。


『んじゃあさ、総代みたいに麒一ってどうかな』


『…っ』


桔梗ちゃんの真似が駄目なら総代の真似はどうだ、と私が提案してみる。誰かの真似をしなければならない事はないけれど、他に良い呼び名が見付からない。


『んーでも麒一とか呼ぶと彼氏みた……って、どうしたの忍者君』


『なっ、ななな何でもないです…っ』


青春の醍醐味と言えば彼氏彼女の名前呼びだと、つい最近読んだ雑誌に書いてあった。特に意識した事ないけれど、そう考えれば確かに付き合ってる人達は皆いつの間にか名前で呼び合ってたりする。と、思い付いた事を言おうとしたら忍者君は顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせている。お、何か可愛い。


『顔赤いよー』


『赤くなんか…っ』


顔が真っ赤になってるような気がしたけれど、忍者君が違うと言うのだから、違うのかもしれない。そういや今は夕暮れ時。顔が赤く見えたのは夕日が当たっているだけかもしれないし。


『ま、呼び方なんて何でも良いか』


『ぼ、僕の…っ』


良く考えたら呼び方なんてどうでも良いような、そんな話題をいつまでも続ける必要もない気がして、結論を口にした、途端。今まで口をぱくぱくさせていた忍者君が漸く言葉を発した。


『僕の名前、き、麒一って呼んで欲しいです…っ』


『へ……え、何で何で』


どうしたのだろうか。桔梗ちゃんの真似は駄目で総代の真似は良い意味が良く分からないし、名前一つにムキになる忍者君も分からない。まあ、別に麒一と呼んで欲しいのなら構わないのだけれど…


『ナマエ先輩には名前で呼んで欲しい…じゃ、理由にはなりませんか』


『え……うーん…良く分かんないけど…』


な、何か気まずい。何が気まずいのか上手く説明出来ないけれど、いつもへらへら笑っている忍者君が真面目な、一丁前に男の顔をさせているものだから、こっちが怯んでしまう…と言うより、ちょっと恥ずかしい。


『え…えっと…じゃあ、……麒一』


『っ』


さっきまで忍者君と呼んでも麒一と呼んでも特に恥ずかしくも何ともなかったのに、急に恥ずかしくなって、顔が赤くなってしまう。心無しか忍者君の顔も赤い。いや、これは夕日が当たっているだけかもしれないけれど…


『や、やだっ…やっぱり忍者君の方が良いやっ』



『えええ…っ』


麒一って呼ぶのが恥ずかしいのも、この胸のどきどきだって、きっと夕日の所為だ。


明日にはきっと、この変な気持ちだって収まってるから、だから…


















(初恋は夕日色)




だから暫く、名前では呼べない。



















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110819めぐ
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