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大嫌いの反対にキスして
(大嫌いの反対にキスして)
近付けるモンならとっくに、




珍しい組み合わせだぞ、と…そう言って笑ったレノを見たのがつい3時間前。資料整理なんざ事務にやらせりゃ良いってのに、現場組の俺等にやらせる上司はどこのツォンだと、それは敢えて言わない事にした。


『おい、この資料どこだ』


『は、はい…っ、あ、あ、あっちです…』


こいつは、ツォン期待でレノお墨付き、更には女に疎いルードも可愛いと豪語する今年の新人ルーキー、ナマエ。確かに顔は悪くないし、小柄な体格で俺達と対等に渡り歩いてんだから実力は認める。ところが気に入らねェのはこの態度。常に一歩引いてる…否、引いてるのは別に良いんだ。唯、引いてる相手が俺だけ…


『…』


レノやツォン、ルードには至って普通なんだ。そりゃあ俺と違って必要最低限の礼儀は弁えてるとは思う。だけど俺に対してだけは他と違う。明らかに逃げてる、明らかに拒否反応が出ている…明らかに、俺に対して嫌悪感を抱いている。何を根拠にと言われればナマエの怯えた表情と、この沈黙が根拠だ。手元に重ねられた書類に目を落として、俺を見ようともしない。


だから俺がナマエを嫌いでも、相思相愛ならぬ相思相嫌…


『お前さ、俺の事嫌い過ぎ』


『え……』


の、筈が無意味な沈黙に堪え切れずに漏れた言葉。もしかしたらずっとこうして言う機会を伺っていたのかもしれない。誰かが居たら、特にレノが居たら上手く話を逸らされるけど好機なのか、ナマエにとったら逆だけど、二人っきりは俺にとっては都合が良かった。


『俺の何が気に食わねェってんだ』


『そ、それは…』


ちらちらと視線を揺らして、明白に動揺している素振りを見せる。それがまた気に入らねェって事にこいつは気付いてんのか、それとも俺の反応を見て愉しんでんのか。どっちにしても胸糞悪ィ事に変わりはない。


『あの…今は仕事しない…っ』


『じゃあ、いつなら良いんだよ』


耐え切れず逃げ出そうとしたナマエの腕を掴んで、本棚に押し付ける。揺れた本棚から折角片付けた資料が床に落ちるけど、今はそんな事を気にしている場合じゃない。一度掴んだ獲物を取り逃すような馬鹿な真似を、俺がする訳ない。


『痛い…です…』


『煩ェ、訳を言わねェなら犯すぞ』


何をこんなにムキになってんのか、人の好き嫌いなんざどうでも良いってのに、こいつだけはどうでも良いとは思えない。痛がるナマエの手首を更に強く掴んで、逃げないように……まるで、逃げるなと祈らんばかりに強く、強く…


『はな…し、て…』


『……っ』


意味も分からないまま必死になり過ぎて、全く気付かなかった。ナマエの目から零れた、透明な雫。


こいつは、泣いている…


『離して下さい……』


『……悪ィ』


泣かせるつもりはなかったなんて、後付けにも程がある。唯、俺だけを避けるその理由を知りたかった。これが泣かせてしまう結果になったとしても構わないと、多少は思っていたに違いない。だけど、泣かれると泣かれるで厄介だ。だから、女ってのは面倒臭い。


『なァ…泣くなって。悪かったから…』


掴んだ手を解いて、溜め息雑じりに謝罪の言葉を口にしたって、書類室に響くのはナマエが啜る鼻の音だけだ。こんな時、女に対して優しい言葉を掛ける事の出来る、この手の女に免疫のあるレノが羨ましい。どうしたって俺には対処法なんか思い付かなくて、時間だけが無情にも過ぎていく。


『何でお前が俺だけを避けてんのか知りたかっただけで…』


この沈黙が意外にも耐える事が出来ずに、まるで彼女に遅刻の言い訳をする彼氏のように必死で。そう言えば何でこんな必死になってんのか、自分が自分で分からない。唯分かる事と言えば、こいつの泣き顔を見たかった訳じゃないって事ぐらいで…


『お前、どーやったら泣きやんでくれんの…』


伸ばした手を、今度は痛くしないように頭に置いた。


『…俺、意味もなく避けられんの…結構辛いんだぜ』


『あ……』


その手で、出来るだけ優しく頭を撫でれば漸く両手を覆っていた顔が覗く。その顔がまた、何とも言えないぐらいに驚いた表情で、厭に潤いを帯びた瞳だったもんだから、思わず一瞬呼吸が留まる。


『あー…えっと…痛い、か…』


『痛く、ない…です』


やっと喋ったナマエの顔はさっきまで泣いていたからか、少しだけ赤い。だけど、何でか今は俺の方が赤い顔をしてんじゃねェかってぐらいに顔が熱くなるのを感じた。


『ナマエ(♂)さんが怖いとか…そんなんじゃないです…』


『じゃあ何で…』


怖いとは言われ慣れてるし、実際の出身がギャングじゃあ怖がられて当然だと思う。結局のところ、然程こいつと関わった事のない俺を避ける理由なんて、エリートコースなナマエにとったら怖いからだろうと踏んでいた俺にはナマエの考えている事が益々分からなくなる。それと同時に、俺が安心したってのも訳が分からない。


『意識、しちゃうんです…』


『…何で………』


意識する意味が分からないと言い掛けて、思い当たる節が線になって繋がった。だけど、その考えに行き着くにはどうにも都合が良過ぎて、期待半分に不可解さが混じる。それ以上に、全身の熱が一気に上がってしまったのは、言う迄もなく俺が男という単純な生き物だからだ。


『だから…す…』


『あーっ、言うな馬鹿ッ』


最後まで言われる事が恥ずかしいのか、気付いたら俺は半分叫びながらナマエの言葉を遮っていた。面と向かって、しかもさっきまでめそめそ泣いてた奴に何でここまで動揺させられなきゃなんねェのか、初めての感覚に頭が可笑しくなる寸前だった。


それなのに…


『好きだからです、ナマエ(♂)さんが。』


『ばっか…言うなって…っ』


最後まで、しかも名指しで愛の告白をしやがったナマエの顔はどこかすっきりした表情を浮かべている。思いの外それが恥ずかしくて…それよりも堂々と言って退けたナマエに悔しさまで覚える始末。気軽に抱ける女以外に対して興味のなかった俺としては、こんな丁寧な純愛はむず痒いとしか言い様がない。


『ナマエ(♂)さんが動揺するなんて珍しいですね…』


『煩ェ…誰の所為だと思ってんだ』


告白をした途端、今まで俺を避けまくっていた態度から一変。これだから女ってのは分からない。ご丁寧に笑顔なんか浮かべやがって、それがまた俺だけに向けられてるなんて思う事が、何だか負けたような気がした。


『返事はいつでも大丈夫です』


『…一生言ってやらねェよ』


それが俺の今出来る最大限の悪態なんだから、こりゃあ益々勝ち目がない。


だけどそれでも、こいつの笑顔を見る事が出来たんだからどうでも良いか、なんて思う…


















(初恋と気付くまでのカウントダウン)




勝っても負けても、惚れる結末


















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Anniversary〜Meteor 1周年!〜

100823めぐ
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