「レコード時代にさぁ。俺あんま音楽とか興味なかったんだけど、話合わせるためにたまに買ってたんだよね」 「レコード? 家に蓄音機あったのか?」 「蓄音機じゃねーよどんだけ遡っちゃうのおまえ。ふつーの……あれ、なんて名前だっけあれ。針落として再生するやつ」 「知らねーよ。博物館行けよ」 「だから! そんな昔じゃねーってば! とにかく、買うわけよときどき」 「ふーん」 「流行りの曲はA面なわけ。でも俺が気に入るのって大抵B面のほうでさぁ」 「エーメンビーメンって?」 「あー……、レコードって裏返したら別の曲が聴けんだよ。表がヒット曲で裏はちょっとマイナーだったりするんだけど」 「裏返す? どうやって?」 「手でひっくり返すの! そこはあんま関係ねーんだよ、俺が言いたいのは流行りに乗るためになけなしの小遣いで買ったレコードなのに、結局流行りに乗らないでマイナーなほうばっかり聴いてたってとこ!」 「めんどくせー代物だなぁ」 「いや裏返すの当たり前だったから。面倒くさくなかったっつかそれ以外思いつかなかったから。そこはいいの」 「ふーん……」 「そんでカセットテープに手ェ出して、深夜放送録音するために夜更かしして、」 「録画、じゃないか録音予約とかないのか?」 「ないよ! ラジオだもん! エアチェックっつってさあ」 「チェックしてねーじゃねーか嘘つき」 「ちげーよ! エア彼女とかのエアじゃねーんだよ放送をチェックすんの! そんでだんだんコッチ系が好きとかこの歌手が好きとか言い始めて」 「レコードは?」 「おいそれと買えねえんだってば。金ねえし。テープのほうが安かったからオンエアされるときに録音すんの」 「あ、そのエアか!」 「今ごろわかったのかよ!? んで、俺はやっぱり流行りの曲よりマイナーな曲のが好きだったみたいで、滅多にやってくんないの。ラジオが。だからリクエストはがきめっちゃ送ったりして頑張ったんだぜ」 「ネットでアップとか……」 「ネットないから! あの頃ネットなんかないからね」 「ええ!? じゃどうやって連絡とかしてたんだよ!?」 「電話だよフツーに。CDは画期的だったね。でもCDプレイヤーが高くて買えなくて、CDだけは買っといて手鏡かよ!ってツッコんだりして。あ、レコードプレイヤーだ! なんで忘れてたんだ俺」 「ええー名前がけっこう普通でつまんない」 「骨董品扱いかよ!? まだ売ってるからね、ときどきだけど!? すっごく稀だけど! まあ、そのうちCDアルバムが出始めんの。けどやっぱり俺はその中の、あんま有名じゃないヤツが好きでさ。レコードと違って擦り切れないから安心なんだけど、テープみたいに編集出来なくて『俺の中のヒット曲集』みたいのが作れねえのよ。腹立つことに」 「パソコンに落とせばいいだろ」 「あのな! CDプレイヤーをやっと買った学生さんがコンピュータなんか買えないし! つかCDをパソコンに落として焼き直すって、つい最近だからな! 出来るようになったの!」 「え?」 「知らねーだろ、生まれたときからパソコンいじってたガキんちょのくせに」 「そこじゃねーよ。銀八、ROMに焼いてんの?」 「……」 「一曲ごとにダウンロードすりゃいいだろ。『好きな曲集』って。好きじゃない曲は買わなきゃいいのに」 「……」 「あっ、そんでアンタのカバンやけに重いのか! もしかしてポータブルの」 「そんなことないけど!? ウォークマンとか持ってるし!?」 「じゃあ活用できてねえな。後で見せてみ」 「……」 「だいたい何の話だっけ?」 「忘れた……」 マイナー好きだけど一途なんだよって言おうと思ったんだけど…… よく考えたらこいつモテるし、マイナーじゃないよな…… それよりジェネレーションギャップ凄すぎ…… 後でCDウォークマン見てもらうか すっげー昔の曲が入ってるけど気にしねえ! |