「とうしろ……あ、ヤバかった?」 「えっ何が!? 何のことだか全然わかんないんだけど!?」 「そう。ならいいや。メシ出来たぞ」 「いま行く!」 今日は俺んちでデートだ。いくら恋人だって見せらんねえモノがあるから、隠してたとこだ。 (たとえば就職課に出す提出物とか。これは銀八には見せない。びっくりさせてやりたいから) 隠し事は、誰にだってあっていいと思う。 「え、これ!? 今作ったのかよ!?」 「まっさか。一部はウチで仕込んできたよ」 「すっげー!どうやって持ってきたんだ!?」 「ん? まあ、いろいろ。汁物は持ってきてないし」 「めちゃめちゃ 美味そう!」 「よかった。しっかり味染みてるし、あつあつだよ」 「うわぁ、いい匂い! いただきまふ」 「食う前に言えよ行儀悪ィなあ」 「出汁は? もしかして」 「作ったし冷凍もしてあるから。味噌汁とかうどんとかにも使って?」 今日はモツ鍋。そろそろ鍋のシーズンでもなくなるし、モツ鍋って俺は外で食べるヤツがあんまり好きじゃない。でも、銀が作ったのだけはすっげ美味いんだ。だから今シーズンの鍋の締めに、これをリクエストした。 仕込んできたって、モツの臭みを取るために家でなんかしてきてくれたんだろ? 野菜はここで煮込んだのかな。歯ごたえが少し残ってるのが、俺は大好きだ。 「店出せるって、これ」 「なーに言ってんの。売ってンのより美味いから」 知ってるよ、どうして? あ……、そうか。 作った人にとっちゃ売り物と同じじゃあ面白くねえのか。 「美味い」 「ん。よかった」 教室で見てた緩い笑顔と変わらないはずなのに、なんでこんなにドキドキするんだろう。 「どうしたの?」 眼、かな。 眼が違うんだ。 「そんなマジマジ見られっとハズカシーんですけどぉ」 「見たことなかった。そんな顔」 銀には、通じたらしかった。 「見せねーもん。他の奴には」 重そうな瞼の奥で紅い瞳が煌めいてる。 こんな眼が見られるのは、俺だけなのか。 すげー、幸せだ。 |