「書店は指定したの?」 「いんや」 「じゃあロケーションからして失敗ね。大型書店にはバーコードシステムがあるのは常識ですもの」 「ぴっ、てやつな」 「そうよ。文字通りレジを通さなきゃいけないんだから、目立たないようにお金置いて帰ったら万引きじゃない」 「小型書店でも犯罪だよね」 「犯罪じゃないわ。了承を得られてないだけで」 「それが犯罪だろ」 「でも店に損害は与えてないでしょ? バーコードは集計にもなってるんだから、お店に迷惑掛けてるもの」 「どっちもどっちだろ」 「あの男の肩を持つの!? そうやって私の嫉妬心を煽るつもりね、いいわ乗ってあげるわ! もっとイジメなさい!」 「そういうのいらないから。で、どうなったの」 「ああっ冷たい銀さん! もっと言いなさい、もっと!」 「いいから。どうなったんだよ」 「普通に出口で捕まってたわ。奥に呼ばれてたけど。逃げればいいのに変に常識ぶるから、店員にフルボッコにされてたわよ」 「フルボッコて……時が時なら『真選組である!』って叫んで終わりなんだけどなぁ」 「真選組なくなったんでしょ。いい気味だわ、私たちなんかとっくの昔にリストラされてたのに」 「ああ……そうね、それは言える」 「それにあの人目立ちすぎ。とても隠密としては使えないわね」 「あっそう」 あの試験が妥当かどうかは置いといて、本職の忍者がダメ出ししたんだからコレはダメだろ。 そんなわけで、ネタは割れてんだよ十四郎。 そもそも真選組が解散になったのに、真っ先に銀さんのこと思い出してくれないトコがもうダメだよね。 万事屋の前にゴリラにお誘い受けちゃってるなんて最悪だよね。まだゴリラの飼育員したいの。飼育員交代しただろ、飼育員っつか同類だけど。メスゴリラだけど。 ヅラに誘われるなんて論外だろ。昨日まで敵だったんじゃないの。なんで会っちゃうの。俺より先に。 銀さん、面白くないです。 激辛採点してやったら、初めぽかーんとして、だんだん顔色が悪くなってきた。 ふん。俺がいつでも甘いと思うなよ。 「でも、俺も十四郎が強くて頭イイのは良く知ってるからさ。最終面接は、しようか」 「……お願いします」 「もう遅いし神楽寝てるし、俺の部屋でいい?」 「お、おー……」 お願いしますだって! お願いしますだって! 半分許した! 残り半分は、 「てめッ、最初っから、これが目的で!」 「いやいや。ちゃんと全員に対抗してもらっただろ? 紹介も兼ねて」 むろん布団の上でお願いしてもらいますよ。 「あっ、まて、本屋! 本屋は」 「新八はメガネが本体だからアレでいいんだよ。つか別のこと考えてんじゃねえ。集中しろ」 新八もアレはアレで男だろ。お前布団の上で丸裸にされてんのに他の男の話なんかすんの。減点。 「三回イけたら採用ね。頑張って」 明け方まで弄くってたかな、うん。だってずい分長いことお預け食らってたんだぜ? しょうがねーよ、銀さんの銀さん待ちくたびれてたんだもん。 「なんか言うことないの?」 「おねが……も、やめ、」 「違うなァ。正解言えるまで終わんねーな」 「ぁ、あ、もっイッた! さ、さんかいイッた! も、できな……」 「ダメだよ十四郎、コレ試験だからね」 「ぁーーーッ! ごめ、なさい」 「何が?」 「ごめん、なさ、」 「だから何が」 「もうヤだァ……できないから、ごめんなさ、」 「違う」 「―――ッ! ひ、」 「もっと早く来ると思ってたんだよ、俺は」 「ぃ、ああぁ! う、ごかなっ、で、も、うごくのヤぁ」 「ヅラにゴリラに、あとなんだっけ? なんで真っ直ぐ俺んトコ来ないの」 「あっ、ぁ、ご、めんな、さッ」 「怒ってんだよ俺は。わかる?」 「ごめんなさい……ッ、あああ!」 外が明るくなり始めたころ、十四郎の面接試験を終わりにしてあげた。 声も出ないみたい。身体を拭いてあげてる最中から、早くもウトウトし始めた。 「十四郎、寝る前にさ」 「んぅ」 「契約書にサインして」 「ぅう」 「お前が面接に来たとき用に、ちゃんと用意してあんだからさ」 「うー、」 「はい、ここね」 「ん」 「おけー。ようこそ万事屋へ」 それだけは聞こえたらしい。 俺の花嫁さんは、嬉しそうに笑って目を閉じた。 どこに出す訳じゃねーが、書いておきたかったんだよ。 俺とお前の連名で。 「よろしくな、奥さん」 そんな俺の声は、ぐっすり眠る十四郎に聞こえるはずもなかった。 |