真選組が平和的に解散したって聞いたその日から、俺はワクワクして待ってたわけ。部屋の掃除も新八任せにしないでしっかりやったし、ジャンプのバックナンバーもけっこう捨てた。ギンタマンは切り取ったけど。 布団も干して、もうひと組買ったほうがいいかなー、でも財布は相変わらずピンチだし最近新八は泊まってかないし、必要になったらでいいかなーなんてウキウキ考えてたわけですよ。 廃刀令が廃止になった辺りから、恒道館にもチラホラと入門希望者が訪ねてくるようになったそうだ。それで新八も毎日は万事屋に来られなくなった。じゃあいっそのこと退職にして、でもなんかあったらお互い助け合うってことにしようぜと話は纏まり、新八は道場に専念することになった。 なったのだけれども。 「近藤さんが来たんですよ」 なんやかんやでフツーに万事屋に出勤してきて、フツーに茶を淹れながら新八は言うんだ。 「ああ、もうストーカー以外の何モンでもなくなったしな」 「もっと酷いんですよ! 住まわせてくれっつってんですあのゴリラ!」 姉ちゃん大好き新八はプリプリ怒ってる。あんま怒るとフレーム曲がるよ。 「メガネが怒るかァァア! 怒ってんのは僕ですよ! 姉上もきっぱり断ればいいのになあなあで泊めてあげてるし!」 「オイオイそりゃマズイんじゃねーの。間違いがあったら……」 「気持ち悪いこと言わないでください! 認めねーぞ僕は!」 「……ゴリラの死体処理しなくちゃいけなくなるだろ」 「そっちかよ!?」 まったく銀さんも姉上を何だと思ってんですか、と言って新八は口を利かなくなった。 でもメガネのひん曲がり度合いなんて俺関係ねーし。 ゴリラが野に放たれたってことは、 いよいよあの子も自由になって、 「俺もとうとう所帯持ちかぁ」 「何言ってるアルか。マヨラーはまだ屯所に残ってるネ」 神楽は相変わらずなんか食ってる。これからは気をつけてくれよ。あいつああ見えて遠慮しいだから、食いっぱぐれちまうだろ。 って、あれ? 「屯所は引き払ったんだろ?」 「屋敷の持ち主の好意で、全員の身の振り方が決まるまで住んでていいってことになったそうですよ」 「あー新八くん、機嫌直したの。誰から聞いたの」 「ゴリラです」 「……えーと、キミんちいつからゴリラ飼ってるんだっけ」 「先週からです」 「私はドSに聞いたヨ」 「へ? 沖田も恒道館にいんの?」 「沖田さんどころか、真選組がほとんど全部引っ越してきたようなモンですよ! 土方さんは違いますけど」 「……」 どういうことだ。なんで来ない。俺の胸以外に飛び込むところがあるっていうのか。いや、無い。 きっとちょっと照れてるだけだろう。恥ずかしがり屋さんだし。 大目に見てやろうと思ってたのに、あいつは一向に来ない。全く音沙汰なしで二週間が経った。 「銀さん聞いてくださいよ! 今度は桂さんまで来て」 「ヅラなら俺ンとこにも来たぞ」 「え、銀さんに頼み事、ですか?」 「あーそんなかんじ。日本の夜明けがどうのって。面倒くせえから蹴り出した」 「そうですか……まあいいんですけど。銀さんがこの国取り仕切るとか言い出したら僕、別の星に行きますけど」 「私もネ」 「おーいお前らちょっと死んどくか……で、ヅラは何しに行ったの」 「土方さんのスカウトです」 「……もう一回言ってくれるかな」 「土方さんの、スカウトですってば。近藤さんから口添えしてほしいって」 「……」 何やってんのあいつ。 あいつって、ヅラもゴリラもだけどこの場合十四郎な。 仕事探してんの? ウチに来ないで? これはお仕置きコースじゃねーの。 その後もゴリラが道場に誘ったとかで、新八は『勝手に話進めないでほしいよ義兄気取りかあのゴリラ』とかキレてたけど俺はそんなことどうでもいい。 ゴリラに誘われて道場? どんだけ俺のこと忘れてんの。 そんなわけで、真選組解散から一か月も経ってから意気揚々と『俺も万事屋やってやるよ』ってドヤ顏でやってきた十四郎くんに、俺は怒りの鉄槌を下すことにしたわけです。 |