確かにこの風体では悪目立ちする。 本屋に入ることすら難しいだろう。その上気づかれずになんて至難の技だ。でもなんでこれが試験なんだ。あと、チャイナ・デカ犬の次がメガネなのか。そんなに地位低いのか。あの小僧いいのかそれで。 考えてみればそれぞれが最強な場面でそれぞれに勝てってことだろう。だったらメガネは買い物最強なんだろうか。それとも『気づかれずに』ってとこが重要なのか。だとしたら山崎的なアレを要求されてる訳だ。 傾向がわかったとしても、俺に潜入捜査は向かないんだ。どういうわけか。うっすら分かってるけど。見張ってンのはまだいいけど、馴染むのは苦手なんだよ。俺が他人に合わせる訳ないだろ。俺に合わせろ。 そうは言っても今回のはあのバカ天パに思い知らせるためにやってるんであって、今後万事屋に於いて誰が実権を握るか、それをヤツに見せつける必要がある。得意不得意なんて言ってられない。やるのみだ。 まず、本屋を指定されてないから大手を選んだ。誰が入ってきたかなんていちいち目視してないはずだ。監視カメラは回ってるだろうが、金は払うんだからむしろ回してもらったほうが好都合だ。 次に雑誌コーナーに行く。 そこで少し困った。 好みの雑誌……? あんま読んでない。○ガジンの発売日今日じゃねーし。真選組ンときはゴシップ記事まで念のため目を通した(主に総悟対策)けど、好んで読んでたわけでもない。 まあいい、今週の○ガジン二冊目だけど買っとくか。 ところでジャ○プは売り切れなのになんで○ガジンは残ってんだ。おかしいだろ。もっと目立つように置け。立ち読みしづらい雰囲気作れ。買え、さもなくば立ち去れと主張しろ。 選んだはいいが、小銭がねえ。 釣りはもらえないし少なく出すなんて言語道断だから、ピッタリ出す必要がある。だが生憎俺の財布にはデケェ札しか入ってない。これ崩すのヤだ。崩した途端に減るし。あ、でもタバコ買うならいいか。タバコ屋どこだ。 ……すげえ遠かった。 チャイナと戦闘してデカ犬に振り回されて、そんだけでもヘトヘトなのに一度着替えに万事屋に戻って(銀時は外出中だった。俺が試験突破してきたらどうするつもりだったんだ)、疲労困憊だっつーのにタバコ屋まで行って戻ってきた日にゃあもう汗だくだ。目立たないようにって、難易度が上がるだろ。仕方ないから最寄りの茶店でひと休みして、エラく時間を食ってしまった。気を取り直してもう一度本屋で○ガジンだ。 「お客様、レジを通していない商品をお持ちではありませんか」 「えっ金払いましたけど」 「当店ではレジを通していただくことになっております。念のためレシートを見せていただきます」 「えっ、や、あの、金置いただけなんで、」 「どこに? いつ? ほんとにお金払ってる?」 ……目撃者がいてくれたんで、万引きの汚名は被らずに済んだ。でもこっぴどく怒られて、住所聞かれてしょうがねえから万事屋の住所言っちまったけどいいよな。 「どうだ! どうってことねーな!」 「うん、もう夜中だけどね。神楽寝ちゃったけど。まあ、報告は聞いた」 「どってことなかったっつってんだろ!」 「神楽を懐柔できたのはスゴいわ。ハイ、酢昆布出して」 「ホラよ!」 「ふーん。ほとんど空箱じゃん。そりゃ神楽も放り投げるわ。しかも貰ったってトコで減点ね」 「ガキから引ったくるなんて、大人のすることじゃねーだろ!」 「そんな生半可な気持ちじゃ万事屋で生きていけませーん。次、定春の散歩だけど」 「テメーやっぱ虐待じゃねーか! いちご牛乳飲ませたらダメだったんだろーが!」 「じゃあ聞くけど、お前一人で定春といたとしてさぁ、冷蔵庫にいちご牛乳しかなくて定春が腹減らしてたらどうするよ。飲ませるだろ? 予備知識も神楽もナシに定春が巨大化したらどうする? 試験を兼ねて定春の実力を知って良かっただろ」 「じ、実力って……! 犬だろ!?」 「狗神ですぅ。あいつも万事屋の一員だから。とにかく定春の散歩ってかお前が定春に散歩させて貰ったみてーなモンだ。零点にはしねえが大幅減点な」 「見てきたようなこと抜かすな!」 「聞いてきたんですよ。阿音百音に」 「ぐぐぐ……」 「本屋もねえ。まず大型書店選んだ時点で間違い。バーコード通すからね、ああいうトコ。今どき街の本屋だってピッ、てやるトコ少なくないよ。大型書店はやんないとこないから」 「目立たないように入れるのは、大型のほうだろう」 「入れるのはそうだけど、キミが今日体験したように出られないデショ。それにさぁ、目撃者がいたから助かったって。ダメじゃん。誰にも気づかれないようにって言ったじゃん」 「……」 「つう訳でこれはさすがに零点」 本日二度目のどういうことだってばよ。 俺は万事屋ごときの採用試験に、おおお落ちたってことか。 そんなバカな。 「でも、俺も十四郎が強くて頭イイのは良く知ってるからさ。最終面接は、しようか」 「……お願いします」 「もう遅いし神楽寝てるし、俺の部屋でいい?」 「お、おー……」 銀時はやる気ないツラしてぶらぶら部屋に入っていった。 なんだ。俺はお情けで雇ってもらうのか。どうなんだ。つうかアイツ、なに聞くつもりだ。万事屋って特別な心構えとかいるのか。特別過ぎてどんな心構えが正しいのか見当もつかない。 なんとなく俺の足も重くなる。 よく知ってるはずの部屋なのに、物凄く緊張する。 そっと襖を開けると、 「!?」 「静かにね。神楽起きちゃうから」 いきなり大きな手のひらで口を塞がれた。驚き過ぎて呆然と突っ立ってたら、強引に唇を重ねられて、舌を舐られて、 気がついたらいつもの布団で服脱がされてた。 「てめッ、最初っから、これが目的で!」 「いやいや。ちゃんと全員に対抗してもらっただろ? 紹介も兼ねて」 「あっ、まて、本屋! 本屋は」 「新八はメガネが本体だからアレでいいんだよ。つか別のこと考えてんじゃねえ。集中しろ」 「うあ……、はっ、ハメやがったな!」 「まだハメてねーよ。あ、三回イけたら採用ね。頑張って」 「アーーーッ!」 〜翌朝。 「銀ちゃん。この紙なにアルか」 「おー。土方入れたから。よろしくな。それ契約書」 「契約書じゃねーだろォオ!? 婚姻届って書いてあるんですけどォォオ!?」 「気にすんな」 《土方十四郎の就活日誌》 ベンチャー企業三次試験・最終面接 →採用決定、契約書署名済み |