チャイナ娘が酢昆布好きなのは知ってる。そよ姫様まで洗脳してたからな。 だが所詮駄菓子だろ。子どもから引ったくるなんて大人げない。くれって言やあ一箱くらいくれんだろ。それともクソ天パ野郎、テメーは甘味バカスカ食うくせに子どもには駄菓子のひとつも買ってやらねえのか。 銀時に教えられた公園に行くと、チャイナがデカ犬と遊びながら酢昆布を咥えてた。よし。いい塩梅だ。 酢昆布と引き換えにデカ犬の散歩を引き受けてやりゃあいいだろう。つかもう運動足りてんじゃねーのか。散々駆け回ってるけど。 「おいチャイナ娘。酢昆布一箱くれ。犬の散ぽ……うわ!?」 「おいマヨラー。お前の馬鹿舌にアタイの酢昆布が合うとでも思ってんのか、ああん? 勿体ねーヨ一億年後に出直すヨロシ」 なんてガキだ。 いきなり得物使って攻撃してきやがった! 撃ってきやがったよこの小娘! 「危ねーだろクソガキがァァァ!? 一箱くらいいいだろうが!? 代わりにその犬の散ぽ……」 「ああん? 私の酢昆布狙うとは命は惜しくないアルな」 体術ハンパねえ! ひとつでも蹴りやパンチ食らったら身体砕けるわァァ!? なんだこの傘、いや知ってたけど、知ってたけどなんだコレェエ!? たかが酢昆布ひとつで死ぬのか俺!? 今まで数々の討入りをくぐってきた俺が!? 酢昆布で!? 「聞けチャイナ! 俺は食いたいんじゃねえ」 「食べ物をムダにする気アルか。ますます許せないヨ」 「ふぉぉあ!? 待て落ちつけ、後で返す!十倍にして返すから!」 「後っていつヨ。お前無職だろ。マダオになったんだろ。返せないアルよ」 「うぉぉお! 無職になったばっかだから! 貯金あるから! 今日中に酢昆布買ってやるから!」 「……マジアルか?」 やっと猛攻が止んだ。なんなんだコイツは。あっちこっちイテーよ。避けたつもりだけど風圧でやられてるよ。あ、片袖取れそう。 「ま、マジだから……ゼー、ハー、」 「じゃあ自分で買えヨ」 「ウゴォォ……ッ、い、犬! 散歩代わってやるから! 酢昆布後で買うから!」 「定春の散歩なんかお前ができるはずないネ」 「馬鹿にしてんのかァァ!? 犬の散歩くらいできるわァァ!?」 「定春に酷いことしたら、息の根止めちゃるからな!」 「お、おう……ゼィゼィ、」 やっと酢昆布娘が一箱、しかも食いかけのヤツを放って寄越した。この足でこいつを連れてコンビニ行って、いちご牛乳買って飲ませれば、 「もう買ってくれるアルか? お前いいヤツアルな!」 「最初からそう言ってんだろ!」 「角の□ーソンに売ってるヨ。箱買いしろヨ」 「ったくしょうがねえな、買ってくっからここで待ってろ」 「十箱な」 「え?」 「十箱箱。足りなかったらタマ取るから」 「……わかったよ! テメーも若い娘なんだからタマとか言うな!」 コンビニの店員がびっくりしてた。俺のボロボロの風体にも、買った物にも。どんな羞恥プレイだ。 ハッ!? ひょっとして天パの変態のプレイの一部か……!? 乗らないけどな。 「何買ったアルか」 「いちご牛乳」 「銀ちゃんに?」 「いや。犬に」 「酷いヨ! 定春いちご牛乳大好きアルよ!? そんなの飲ませるなんてお前鬼アルかァァ! ホアチャァァア!!」 「ウガァァア!? ちょ、待てェェ! 散歩の前に飲ませてやれって言われたんだっつーの!」 「定春苦しむヨ! やめて!」 「? でも好きなんだろ」 なんかやっぱり体によくないんじゃないのか。 とはいえ牛乳パックを目敏く見つけたデカ犬は興奮して、俺の頭をしきりと齧ろうとする。これでは俺が危ない。 チャイナが止めるのを躱してパックから直接飲ませてやった。ほんと好きなんだな、美味そうに飲んでる。身体もデカイし、五本くらいすぐ飲めそうだ。 ……と思っていたら。 三本目で飲むのをやめた。 どうした? 腹痛くなったか? 「ウググググ……」 デカ犬は呻き出した。呻き出したと思ったら、犬の体が、 「なんじゃぁこりゃあ!?」 「だから止めたのに! ちっさい定春の飼い主ントコ行くヨロシ! 定春ぅ! ごめんね、このマヨ後で締めるアルよ、頑張って!」 理由を聞き出すのにまたフルボッコにされ、その巫女姉妹を急いで訪ねる。その間、 「散歩したいんだろ。お前が連れて行くネ」 「えええええ!?」 リードが通じる相手じゃねえよ! 一応引いてみたけど引き摺られるだけだよ!市中引き廻しの上獄門かよ!? デカデカ犬は言うコトを聞くつもりはない。大通りをゆうゆうと走り、車を跳ね飛ばし、何処かを目指している。チャイナはどっか行ってしまった。チクショウ散歩には違いねえが公衆の迷惑じゃねえかァァァ!? 「マヨラ! こっちこっち!」 チャイナか! 連れは…なんだあれ。揃いの衣装を着た顔も揃いの女二人が前方でモダモダしてる。危ねえぞテメーら、跳ね飛ばされるぞ、 「その子を封印するわ。私の封印式に追い込んで! その前に呪術で元の姿に戻すかやってみるけど当てにしないでよね」 「テメーらが巫女かァァ! なんとかしろォォオ!」 「儀式に時間がかかるのよ集中しないと呪文忘れるし百音が笛間違うから静かにしなさい」 「できるかァァァア!?」 デカデカ犬にしがみついて振り回されてるだけなのが見えねーか!? だが犬もチャイナの声は聞き分けるらしい。何とか封印式とやらに追い込んで、何かやって、デカデカ犬は普通のデカ犬に戻った。 こっちは着物ボロボロだし血塗れだし、見た目はアレだが課題は二つクリアだ。 見たかクソ天パ、頭使うってのァこうやんだボケェェエ! 「おいマヨラー、そのカッコで街中ウロウロする気アルか。迷惑だから着替えて来いヨ」 「マジでか」 《土方十四郎の就活日記》 万事屋一次・二次試験→終了 |