「あー……神楽だな」 帰ってきた銀時に顛末を語ると、 銀時はニヤニヤとだらしなく笑った。 「新八んち行ってんだろ。おめーが電話番してるって沖田くんに喋ったんだな」 「あんの野郎、おお覚えてやが」 「いい練習台が増えたと思えよ。神楽に悪気がゼロじゃねえとは思うけど、結果的に悪かねえよ」 「テメーらは総悟の悪質さを知らねーんだ!」 「イヤイヤよーく知ってますよ? むしろ何度も何度も騙される十四郎くんより良く知ってますって」 二人きりなのをいいことに、銀時は俺の手を引いてソファに座らせた。そして自分もすぐ隣に座り込む。 「それより、なんだって? 銀さんがこの時間に掛けてこいって言ってた、とかだっけ?」 「…….総悟なら、いたずらだろ」 「あのなぁ。世の中な、勘違い女とか思い込み激しいヤツとかいっぱいいんの。今回は沖田くんだったけど、マジで思い込んでるヤツからだったらどうすんの」 「心当たりでもあんのかよ」 「納豆女くらいだけどな。アイツは電話してこねーから。天井ぶち破ってくっから」 「……」 「だからね。いちいち妬き餅焼いちゃダメ。十四郎が嫌な気持ちになるだろ」 「……妬かせなきゃ、いいだろ」 「ブハッ!! マジでか!?」 銀時は急に手を離して鼻を押さえ、イヤイヤこれ計算してねーから天然だから、狙ってねーから騙されんな俺、とかブツブツ呟いてた。 置いてけぼりにされたようで面白くない。今度は俺が手を引いた。 「へっ? どしたの?」 「総悟の野郎、どういう関係だって言いやがった」 「……そう。で、なんて答えたよ」 「同居人」 「へーえ。ふーん。同居人かあ」 「なんだよ! 総悟の奴、おおお、奥さんかって聞いてきて」 「そうですよって言ってくんねえの」 「え」 「まー無理か。照れ屋サンだもんな。それに奥さんてェのはちょい違うよな」 そうだろ。 奥さん、じゃねえんだよ俺は。 もっと近い何かであってほしい。でも何て言えばいいのかわからない。 口八丁なこいつならわかるのだろうか。 「じゃ、なんて言えばいいんだ」 「そうだなァ。そう言われると困るなあ」 「んだ、テメーもわかんねえのか」 「でも同居人って。それはナイよ、うん」 「だからなんつーんだ」 「もう少しなんか言いようがあるんじゃないかなあ。銀さんそんな淡白なカンケイ嫌だなー」 「淡白って」 「濃ゆーいカンケイですって、そりゃ言い触らすモンじゃねえけどさー? 同居人って、ヤダなー」 「俺も嫌だけど。なんて言えばいいのかわかんねーんだよ」 「もっとさあ。銀さんいないと生きていけない!みたいなさあ。切迫感がほしいっつーか」 「あー、はいはい」 「えっなにそれ。真面目に言ってんだけど」 「わかったよ。拗ねんな」 拗ねると面倒くさい奴だと日頃から思ってたけど、今日のところは何となく許してやろうと思った。 俺を指す言葉は、これっていう正解はわからない。でも、その切迫感とやらがない『同居人』という言葉が、銀時も気に入らないのが嬉しかったから。 少し甘やかしてやろうと天パをかき混ぜてたら、するっと腕が伸びてきて抱き寄せられ、キスされて、 ――呼び方なんてどうでもよくなった。 後日。 「はい、万事屋ぎんひじ」 『お、慣れたねぇ。上出来上出来』 「当たり前だ。俺を誰だと思ってんだ」 『ん? だーれ?』 「坂田銀時の財布握ってる土方十四郎だゴラ」 「超強そうアルな」 「ある意味最強でィ」 |