新八が万事屋に来なくなった。 また入門希望者が来たんで、道場主は立ち会わなきゃならないからだ。来なくなったっつっても一週間くらいなんだが、それでも何かが足りない。 「なーに感傷に浸っちゃってんの。何かって決まってんだろ。ツッコミだよ」 そうだよな! テメーのツッコミはほとんどボケだからな! 「違うネ。ここんトコずっと私ばっかご飯作ってることヨ」 当番だからだろボケ。つーかお前のは作ってるって言わねーよ。卵掛けてるだけだよ。だったら土方スペシャルがいいわ俺は。卵いらねーよ。 「そんなにたくさん来てんのかねぇ。入門希望者ってェのは」 「案外閑古鳥なんじゃネ? 恥ずかしくて今さら私たちに言えないんじゃね?」 「だったりしてなー! ぷくく」 「どういう喜び方してんだ!? そこは心配してやれよ!」 まあ、聞きゃしねーのは慣れた。銀時も神楽も、フヒヒとかウヘヘとか、ヘンな笑いを堪える気もないらしい。 今さらこいつらに良識を求めやしねえが、俺は俺で心配つうか、疑問があんだ。 「弟子取る余裕あるのか? あそこ」 「アソコだって、土方くんやーらし」 「そうじゃねえよ!? 神楽も笑うな!!」 とりあえず銀時はぶん殴って、神楽を睨んどいた。年頃の娘の前でなに言ってんだテメーは。んでオメーも意味わかっちゃダメだろ。忘れろ、その余計な知識。 恒道館は広いってのは知ってる。 だが真選組の半分以上が引っ越したんだ。食客全員が住んでる訳じゃねえかもしんねえが、それにしてももう、面積的に無理なんじゃねえの? あいつら稽古も激しいしある程度スペースねえと怪我人だらけになんだろ。素人なんぞ混ぜたら大怪我すんぞ。 銀時と神楽はやっと下品な笑いを引っ込めた。その代わりエラく不貞腐れている。もう、なんなのこいつら。ガキ? 神楽はともかく銀時、テメーまでなんなの。 よくよく聞けば、恒道館が弟子を受け入れ切れないほど繁盛している事実が受け入れられなかったらしい。 そりゃそうだよな! ついこの前まで門下生は実質姉の妙だけだったのに繁盛してんのに、片やテメーはロクに仕事もしねーでゴロゴロしてばっかだもんな! 雇い主のメンツ丸つぶれだよな! 新八のほうが大出世なんて、認めたくねーよな! ざまーみろ! 「うっせーよ。ダメガネのくせに生意気なんだよ、オメーだってジミーくんがオメーより金持ちンなったらぶん殴るくせに」 「あァ!? ある訳ねーだろ山崎は何処行ったってパシリなんだよ何事においても俺を上回ることなんざねーから安心しやがれ!」 「ヒドいネヒジカタ、こないだお前が美味い美味いってマヨネーズ掛けて台無しにしてたメロン、ジミーが持ってきてくれたヤツだったのに」 「あんだと!? あんにゃろ絞めてやらァ! それとマヨネーズはメロンを引き立てるだけだから! 台無しってなんだ!?」 「ほら見ろ怒るじゃん。ジミーに先越されて怒ってんじゃん」 「怒ってねーよ!」 でも、俺たちは不意に気がついた。 誰も恒道館を見に行ってない。 実際どうなんだ。流行ってるのか廃れてんのか、どっちでもないのか。どうなんだ? 「あー。そのうち行こうとは思ってたんだけどよ……」 「ヒジカタ来てから銀ちゃんに泊まってきてって頼まれるコトなくなったアルからな……」 「!? オイ銀時どーいう、」 「神楽ァ。明日から飯当番かわってやるよ」 「おうヨ。姐御んち泊まりに行かされたことなんて一度もないネ」 「オイィィィ!? たまたまチャイナが泊まりで遊びに行くから来ないかって、テメ、」 「あ? いつの話? そんなことあったっけ?」 「ないネ。ヒジカタの気のせいネ」 「テメェらいつか痛い目見るから。絶対見るから。俺は痛い目見るテメェらを見る、絶対にだ」 とにかく、いっぺん見に行こうって話になった。 ついでにこの間まで神楽が世話になってた礼を言わないと。 「んー……世話になったっつーか。劇物食わされたっつーか。いつも思うんだけどあの女、もう少しマトモなモン作れたらなァ。タカリに行けンだけどなあ」 「じゃあお妙にそう言ってみろ」 「俺に死ねと?」 「代わりに言えとか言わねえだろうな。俺だって無理だからな、あの女は」 「だってキャバで人気なんだろ? 副長さんは」 「あ? まぁ、テメーよりはな」 「かっちーん。オメー言ってこいよ『もう少し人類に優しい食べ物作れねーの?』って」 「……って銀時が言ってたって言ってくる」 「ちょ、やめて。未亡人になりてーか」 「悪くねーな」 「オイィィィィ!?」 銀時は浮かない顔で考え込んだ。そしてしばらくして、重々しく口を開いた。 未亡人になりたくねえよ。安心しろ。 |