「ふーん。で、結論はコレかい」 スナックお登勢に看板工事の許可を貰いがてら、挨拶に行った。住人がひ、一人増えるって、大家の許可がいるしな。 銀時がなんて説明すんのか、非常識なこと言い出しやがったら即フォローに入ろうと思ってそれなりにシミュレーションしてたんだぞ。俺は。 それを、銀時はいとも簡単に『コイツと一緒に住むから』で済ませた。そ、それならいくらでも受け取り方があるからいいだろう、合格だと安心してたのに。 婆さんは俺たちのことは知ってたようだ。 万年金欠なんだから嫁さん困らせんじゃないよ、という返事だった。 いたたまれなかった。 でも、ここでも俺の恥なんかまる無視だった。どうなってんだコイツら。 「ほい、新しい看板案。これなら『銀』までは今までのが使えるし、チラシも今ある分はシールで訂正すりゃ刷り直ししないで済むだろ」 銀時はさも自分が考えたみたいなツラしてる。言っとくけど俺の案だからソレ。 「そうかい。いい右腕が来てくれたもんだ」 でも婆さんには見抜かれたようで、ざまあ見ろだ。誰が股間だアホ。 「新婚のうちは少しゃ大目にみるがね。あんま大声出さないでおくれよ、ここの客は一人モンが多いんでね」 「えっ」 「今に始まったことじゃねーだろ、これからは外行かねーかんな。我慢しやがれ」 「追ン出されたきゃ好きにしな」 「ちょっ、ええ!? え、えええーーー!?」 「あれ、聞こえてないと思ってた?」 銀時はしれっと言うんだ。 「聞こえそで聞こえないよーで、実は聞こえてんのがヨかったんじゃねーの?」 「バッ!? ななななに言って」 「だっていつも最後はデケェ声でぎんとき、ぎんときって」 「だだだ黙れェェェ!? お前マジもう黙れ!?」 「そういう話は二人でしな。ったくロクでもないこと聞かせてくれてんじゃないよ」 「あっ!! えっ、あれ、あの、」 「看板の件は了解したから。日程だけ教えとくれ。あとは好きにやんな」 「好きにヤるわ」 「そっちじゃないよバカ」 頭がクラクラする。 なんで当たり前にこんなこと喋ってんだこいつら。これがココの『当たり前』なのか。そうなのか。 だとしたら俺が慣れなきゃいけないことは……どんだけあるんだ。 それでもすぐに馴染んじまうんだろうな、という確信が何処かにあって、嬉しいような、複雑な思いがした。 「さ、発注に行こうぜ。源外のジジイにも会わせてーし。ジイさんならキレイに作ってくれんだろ」 「それって平賀源外か」 「そーだよ。先週やっと指名手配解かれたんだと。新しいお上が手配書見直すのに時間掛かってて、ジイさん後回しにされたらしい」 「ふーん。テメーは俺の知らねーとこで、とんでもねえ野郎と付き合ってたんだな」 「まあまあ。会えばわかっから、カリカリすんな」 「だーれがカリカリしてんだゴラ!?」 《土方十四郎の業務日誌》 取引先への挨拶 兼 看板作成依頼 →「ちゃん」取り外しと「ひじ」金型発注(印刷処にシールの「ひじ」も依頼) |