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最後の嘘


訝る銀時に土方は、愚かだなと自分を笑いながら最後の嘘をつきました。
それは自分が傷つくだけの嘘でした。
「まだ一人で生きていける」、と。
いっそ笑い飛ばしておくれよ。

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最後の嘘をつきました


※バッドエンド




「なんでそんなこと言うの」

 銀時は不満そうに尋ねた。でも土方にはこれ以上の説明はできそうになかった。

「もともと一人でやってきたんだ。今までが普通じゃなかった。そんだけ」

 銀時はますます眉を寄せて、少し苛立ったようだった。

「じゃあこれからも普通じゃなく過ごせばいいだろ。もとが一人だからってこれからわざわざ一人になるこた、」
「お前にとっちゃ勝手な話だろうさ。どう思ってくれてもいい。とにかく」

 ああ、本当に笑い飛ばしてくれればいいのに。いや、やっぱり知らないままでいてほしい。

「別れよう。もう会わない」



 銀時。本当に好きだった。
 でももう、この想いさえ俺は消さなきゃならない。何があってもお前の名を口にしたりしないように。すっかり忘れ去らなければならないんだ。
 やがて銀時が引き止めるのを諦め、立ち去るのを背中で感じながら土方は泣いた。今日だけ。今日だけは銀時のことを想って過ごそう。


 翌日、迎えに来た籠に乗せられて土方は幽閉先に連れ去られた。幽閉されることは誰も知らない。知った時には、土方の痕跡はないだろう。真選組がどんなに手を尽くしても、この相手には敵わない。
 厄介な奴に見染められたものだ、と土方は溜め息をついた。飼い殺し。この先の自分の人生は、まさにその言葉通りになるだろう。身体も心も汚されて、廃人に等しくなる日も遠くないに違いない。
 もしも自分の気が狂っても、決して銀時の名は呼ばないと心に誓っていた。こんな汚れた場所であの綺麗な銀色を、思い浮かべるだけで罪だと思った。きっと護る。美しい銀色の魂は。


 だからこそ、切り捨ててきたのに。
 一人でいいと決めたのに。


 主の部屋に呼ばれた夜、用意された煌びやかな着物に袖を通しながら、想うのは、


「……ぎんとき」


 泣いてはいけない。何があっても新しい主に逆らってはいけない。この身になにが起きても、あの銀髪を思い出してはいけない。
 そう決めていたのに。

「なあに」

 与えられた従者の中から聞こえる、懐かしく優しい声。
 もう狂ってしまったのだろうか。まだ忘れられないのに。まだ狂ったらだめだ。銀時を、護らなければ。

「嘘つき。一人でこんなとこにいられるの?」

 そっと羽織を着せかけながら、子供の悪戯を諭すように語りかけるのは、

「ぎんとき」

 肩越しにその目を確かめれば、紛うことなき緋色。

「銀時ッ」




 銀時が土方を発見したのは、別れてから半年以上経った後だった。
 痩せ衰え、美しかった黒髪は見る影もなく荒れ果てて、焦点の合わない目で何かを探していた。
 誰にも目も掛けられず、死にかけの宿無しとして打ち捨てられていたけれど、銀時にはひと目でわかった。

 名前を呼んで抱き上げても反応はなかった。ただぼんやりと、辺りを見回しては口の中で何か呟いていた。
 ひび割れた唇に耳を近づけてみると、


「ぎんとき」


 十四郎。
 だから言ったのに。
 一人でなんて生きていけなかったじゃないか。
 お前に聞いても何も言わないとわかってたから、あの日お前と別れた振りをした。その足で真選組に駆け込んで、お前の身辺を洗った。
 誰もなんにも知らなかった。
 お前はあまりに手際よく自分の足跡を消し、誰にもわからない方法で姿を消していたんだ。
 ただ一人、俺にだけ、最後の嘘を遺して。
 離すんじゃなかった。行かせるんじゃなかった。
 嘘でも別れる振りなんか、するんじゃなかった。


 銀時の慟哭はもう、土方には届かない。





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あきゅろす。
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