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真の理由


土方が闇堕ちしたのは、大切な人を救うために自分を売ったからです。
腕が機械化されています。
正直しんどいです。

shindanmaker.com/836999
#あの子が闇堕ちした





 土方の右腕が肩からそっくり機械になって以来、俺たちはなんだかギクシャクしている。

「近藤さんが危なかったし、腕差し出せば手っ取り早く解決できたし、代わりの腕は貰える約束だったし」

 初めて機械の腕をぶら下げて現れた日、土方は面倒くさそうに言った。腕についての説明はそれだけだった。
 でも、それ以来土方は笑わなくなった。俺を真っ直ぐ見なくなった。利腕を無くしたようなものだ。日常的に違和感は否めないだろうし、剣だって上手く振れるのか怪しい。大丈夫なのかと聞いた俺に、土方はやっぱり面倒くさそうに『別に』と答えた。リハビリなんかなしにすぐさま使いこなせたそうだ。機械の腕を。

「動作は生身の腕と変わらねえから。むしろ機械になったことを忘れてる」
「……そんなもん?」
「それより肩が凝る。重くて。腕が」
「そう……」
「あと、無意識に顔掻くとき思ってたのより手が冷たくてびっくりする」
「ああ。金属だから」
「肩の辺りは生身のカラダであったまってるんだがな」
「ふうん」

 俺から話を振っといてなんだが、何一つ共感できないから話は広がらない。大したことなさそうな顔にも見えるし、大したことないように振舞っているようにも見える。どっちだかわからないから迂闊なことを言えなくて、俺は短い相槌しか打てなくなる。
 確かに機械の指は冷ややかで固い。指や手の形は生身の造形と寸分の違いもない。それだけに、温度と手触りの異質さが浮き彫りになるような気がする。ああ、もう生身じゃないんだと、触れるたびに思い知らされる。
 腕の違和感なんてどうでもよくて、腕が機械化したという事実に、土方のこころが打ちのめされているのではないだろうか。血が通っていないことを思い知らされるたびに、土方のこころは磨り減っていくに違いない。


 というようなことを沖田くんに言ったら、曖昧な返事をして黙り込んでしまった。

「え、なに。もっと深刻だったりする?」
「――もっとっつうか。方向違い、っつったほうがいいかもしれやせん」
「?」

 沖田くんはまたしばらく黙って、団子にも手をつけずやたらと茶を啜った。
 それからぽつぽつと語るところによると、機能に問題は少しもないらしい。

「剣捌きも変わりねえ。なんならかえって動きが速くなったくれえでさ。痛みもありやせんし、そもそも出血もしやせんから斬られようが撃たれようが本体にダメージは行かねえんで」

 旦那。そもそもなんであんな腕くっつけるハメになったか。そこんとこ、野郎はアンタにどう説明してますか。



 とりあえず全力疾走した。体力はあるほうだが息が切れてろくに口が利けない。やっと探し当てた男の右腕を掴んで逃がさないようにするので精一杯だ。
 土方は怪訝そうな顔をしている。やっぱり俺を真正面から見ようとはしないが、困っているのはわかる。それに、面倒そうにも見える。

「手っ取り早い方法ってなに、」

 言いたいことがあり過ぎて整理なんかできない。いきなりなんだよ、と土方はつまらなそうに笑う。

「手っ取り早く近藤助けるって、それって……回りくどく助ければ良かったんじゃねえの」


『真選組としちゃあ一般人の危機を回避してやンのも仕事のうちらしいんで、俺からも警告しときやす。旦那、アンタの腕ですが、まだ安全っつーわけでもねえと俺ァ思うんでさ』


 土方は今度こそあからさまに嫌な顔をした。俺に取られた腕をそっと解こうと、温かい左手が俺の手を捉える。


『近藤さんが持ってこいって言われたのァ「白夜叉の右腕」だったんでさ、初めはね――むろん近藤さんがンなこと飲むわけがねえ。一蹴してやったんですが、それ以来やたら闇討ちを仕掛けられてねィ』


「別に誰の腕でも良かったらしいぞ。白夜叉は無理なんで、代わりの腕用意するって言ったらあっさり頷かれたしな」


『護衛は万全とはいえ、いつかうっかり闇討ちに成功されちゃ困るんで、土方さんが交渉に乗り込んでって。俺たちになんの相談もなく、ある日あの腕ぶら下げて帰って来やした』


「その場で腕の型取りして、一週間もしねえうちに完成したんで、取り替えてきた。そんだけだ」


『先方が本当にアンタの腕を諦めたのか、その辺は土方さんの腹ン中ですから俺としちゃ百パーセント安全ですたァ言えやせん。あの野郎が浮かねえツラしてんのも、大方その辺りが原因かと思うんですが』


「なんで言わねえの。俺の腕寄越せって、相手がそう言ってるって、なんで俺に言わねえの」

 温かいほうの手を振り払った。馴染みがあるのはそっちの手だが、俺が今触れたいのは、いや、これから馴染んでいこうと思うのは、固い機械の腕だ。冷たかった無機物は、今は俺の体温を吸い取って生温くなっている。

「だから言ってんだろ。別に俺のでもいいって言い始めたし、自分のなら即決できるし、その方が早いからそうした」

 土方は素っ気なく言い切って、そっぽを向いた。この男、これが本心かもしれないから恐ろしい。土方の一部であるなら、受け入れて然るべきなのかもしれない。でも、この生温い金属は百歩譲って受け入れる努力もしようが、この態度はだめだ。

「土方。俺は、」

 お前の身体をこんなふうにされるくらいなら、腕の一本や二本くれてやるに決まってるだろう。そんなことも理解していなかったのか、と言おうとして口を噤む。
 土方の目が、久し振りに俺を見ていたから。

「テメェならもっと上手くやっただろう。誰の腕も落としゃしねえだろうし、近藤さんが死ぬこともねえ。ンなこたわかってんだよ」

 土方は俺が見つめているのに気づき、苦笑してまた目を逸らした。

「……どうやったって俺はテメェに敵わねえ」

 そっと俺の手を振り払い、土方は苦笑を浮かべたまま後ろを向いた。そして二度と振り返らなかった。二度と。



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なんか出てきた!わりと好きだったのでup






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