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虚構


※完結篇ネタ注意。筋書きいじり有り、注意。イメージ崩されたくない人絶対注意。とにかく注意










 こいつには本当の姿を見られていない。見るタイミングがない。

 だって料亭で別れてから会ってないし、お妙の病室で近藤には会ったけれど俺だってわかっていなかったと思う。お妙を喜ばせるために嘘をついて話を合わせてくれただけだ。惚れた女のあんな姿を見たらショックだろうに、そういうとこ無駄に漢だよな、近藤って。
 まあ何が言いたいかというと、近藤だって気づいてないから土方に『坂田がいたよ』なんぞと伝えようがないってことだ。だから土方は俺の本当の姿を知らないはずだ。



 なのにどうしてお前、ここにいるの。



「奴を見つけたら必ず俺を呼べ。無茶すんなよ」

 いくら五年後の新八と神楽が見違えるほど強くなってたとしても、魘魅の怖さは別のところにあると思えてならない。あの子供たち――もう子供ではないのかもしれないが、あの二人は生き延びて欲しかった。
 数日前まで『珍さんなんて受け入れない』って顔してた二人も、事態のヤバさはすぐ飲み込んだ。それは、昔三人でトリオ組んでたときの呼吸がまだ残っていたからだと思った。死んだと思われてる俺が、こいつらの根っこにまだ生きてるのが嬉しかったし、何よりも、いがみ合っているように見える新八と神楽が、いざとなると自然と手を取り合うことが嬉しかった。

 だから俺は、ある意味安心していたのだ。魘魅は必ず俺が一人で仕留められるのだと。あの二人さえ引いてくれれば、俺一人で十五年前の決着をつけられるのだと。


「なんでテメーがついてくんだよッ!」


 俺よりちょっと年上になった土方くんが、黙って俺についてくる。やっと取り戻したはずの大事な大将でもなく、護り抜いた旧真選組の連中でもなく、胡散臭いと吐き捨てた俺に。

「ッは! また消えてなくなられちゃ堪んねえからな!」

 サラサラだった前髪をどういう心境か横に流して、切れ長の目をギラギラさせて、土方はニヤリと笑った。

「おい!」
「それに、俺に説明もなく消え去りやがった言い訳も聞かねえと」
「何のことだッ、お仲間ンとこに帰れ!」
「帰るなっつったり帰れっつったり、どっちなんだかハッキリしろ」
「だから! 何のことだかわからねえって!」
「俺はわかるよ。銀時」


 足は止めなかった。神経を敵に集中させることに専念した。そうしなければ、振り返ってしまいそうだった。


「……いつ、」
「座敷で。怪しいと思って触ってみりゃ案の定」
「どういう……」

「見縊んなよ。テメーが四着しか持ってねえ着物なんざ、隅から隅まで知ってるってんだ」

「……」

「チャイナが自分の服に仕立て直したとき、三着しかねえって俺んとこに怒鳴り込んできた」

「……」

「とうとう見つからなかった。テメーが着てるそれが、最後の一着だ。袖んとこにタバコの焦げが付いてる」

「……」

「それとガタイだよ。どんだけテメーのカラダに触ったと思ってんだアホ。肩に手ェ置いた途端にわかったわ」

「……」

「言えねえ訳があんだろ。今は聞かねえし先に野郎ぶっ潰さねえと」

「野郎って、なんだかわかってんのか」


 土方の知らない過去だ。知らないままのほうがいい。


「わかんねえよ。でも、お前がぶっ潰そうとしてんだろ。だったら俺も行って当然だよな?」


 年上の土方は、汗だくで走りながら笑った。
 ついこの前まで見慣れていた姿とは少し違うけれど、やっぱり土方の笑い方だな、と思った。




 帰れと言っても強情なあたりが『前の』土方と違うところか。この土方は近藤と五年も離れて暮らしていたせいか、近藤を放置することに躊躇いがなかった。時間泥棒を泥棒した野郎と対面したとき、土方はやっぱり俺の傍にいた。
 手を出すなと怒鳴ったが、言うことを聞かなかった。

 手合わせしてみて違和感があった。
 こいつ、昔やり合ったときと剣筋が違う。そしてこのやり口、覚えがあるが思い出せない。
 土方が横で小さく呟いた。

「チッ。テメーの剣にそっくりでやりにくいったらねぇ」

 そうなのか。確かに読まれてる感はあるし土方がやけに優勢なのに俺は防戦一方って、何かがおかしい……





 魘魅の胸を貫いたのは俺と土方同時だったように思う。
 普通の生物なら必ず死ぬであろう急所を突いたことを確認したとき、土方の厳しかった表情がふっ、と緩んだのが見えた。


 でも、奴が死の間際に見せた素顔。


「ごめんな、土方」

 五年後の俺は年上の土方に、困ったように笑いかけた。

「とっくに忘れてるだろうと思ってた。ちょっと計算外」

 俺は初めて、土方を見る俺の顔を見た。

「五年前なら言ってもついてきやしなかっただろうに……でも、最後の最期に、かお、見られて、よかっ、」


 なんて勝手な野郎なんだ、俺は。
 おい見えてるか、五年後の俺。この土方の顔が。


「そういう訳、だから。俺たちに近寄ンじゃ、ねえ」

 馬鹿野郎。言えよ、最期に触りてえって。ほら、テメーが言ってやらねえと、土方は我慢しちまうんだ。知ってんだろ。五年の間に忘れちまったのか。

「とうしろ……かえ、れ」

 土方は五年後の俺に伸ばしかけた手を戻した。そして、俺に向き直って目を合わせ、もう一度死にかけの俺を見た。

「ごめん……ちょっとの、間は、辛いかもしんね、っけど」


 俺は俺と目を合わせる。
 しっかりと。


「何をすればいいか、わかるな?」



 わかる。わかったから、安心して死ね、坂田銀時。
 土方はそんなに長いこと泣かないだろう。坂田銀時は存在しなかったことになる、だから土方は俺のことで悲しんだりしない。

 本当の姿は見せないで消えよう。

 俺は、あってはならない存在だったのだから。







side H.

 いつの頃からか、総悟に負けが込んできた。
 今のところ道場での話だ。それに不本意ながらヤツにはあまり勝った覚えがない。
 だが、いつもと何かが違う気がする。

「どうしやした。五十肩ですかィ」

 ヤツにも気づかれたらしい。

「あ? 俺まだ二十代なんだけど」
「じゃあ単に下手なんですねィ」
「あんだとゴラ!?」
「今に始まったことじゃねーんで、俺ァどうでもいいんですが」

 総悟はエラっそうに俺を見下ろした。チビのくせに。

「しばらく現場は控えてくだせェよ。足手まといだ」
「……はッ」
「自覚ねえんで? アンタ、腰が引けてやすぜ」

 道場で見るあのチビはヤケに堂々としてやがるから腹が立つ。ガキの頃からツラも髪型も性格も何にも変わってないくせに。稽古もサボってばっかりのくせに、なんでアノヤローあんなに腕が立つんだ。

 自覚がない、だと?

 あるに決まってるわ。そこまで落ちちゃいねえっつーの。
 ただ、原因がわからない。

 ある捕物のときに気づいた。相手の懐に飛び込んで叩き斬ろうとしたのに、まるっと瞬き一つの間、体が躊躇した。斬れなかった。手傷は負わせてやったし、そいつから情報を吐かせたから結果的には良かったものの、ヒヤリとしたあの瞬間の感触がいつまでも忘れられなかった。
 あれ以来だと思う。
 討ち取れなくなった。

 異変はそれだけではなかった。

「ヒッ……」
「あ、ごめん。今日もダメ?」

 銀時にさわれなくなった。
 心変わりしたとか、そんなんじゃない。むしろ銀時の傍にいるときがいちばん寛げる、ってこっ恥ずかしいこと言わせんな。
 たとえば隣に座ってるだとか、布団並べて一緒に寝るだとか、向かい合って飯を食うとか、そんなのが心地よい。なんでこんなマダオに惚れたんだ俺はアホなんじゃないかとも思わんでもないがアホでいいやと思い直す、ってなに言ってんだ俺。

 けれども、いざ抱き合おうとすると――それが俺から望んだことであるにもかかわらず、背筋に悪寒が走る。嫌悪と言っていい。銀時の体温は間違いなく心地いいのに、それに触れることを俺の生理的な何かが激しく拒否する。
 銀時は『気にすんな、気にするともっとダメになっちまうかもしんねーし』と言って放っておいてくれる。でも、それは俺が嫌なんだ。
 銀時が……離れていくような気がする。

「なに言ってんの。それほどガッついてねーって俺も。つか、えっち抜きのおつき合い覚悟してたから、最初」
「最初はな」
「そうそう。だから、今からえっち抜きになっても俺は変わらないぜ」

 手コキが大丈夫になるといいねー、そしたらヌイてあげるから、なんて呑気なこと言ってるクソ天パだが、そんなんじゃ俺のカラダが保たね……ってもう黙れ俺の内なる声!


 肉を断つ感触。
 とっくに慣れていた。真選組とは関係なく、人を斬ったことは何度もあった。
 確かに真選組を立ち上げるに当たって一撃必殺の剣が使えるように稽古を重ねたし、斬ったイコール殺した、の図式が当たり前になったのは武州から出てきてからのことだが、それだって随分前の話だ。
 今さら人の体に刀をぶち込む、その感触を嫌悪するほど柔な神経もしていない。

「なんかヤなことでもあった? 斬り込みのときとか」

 俺が塞ぐのを気にしてか、銀時は原因を一緒に考えるつもりになったようだ。

「……いや。特に変わったこたァねえ」
「じゃあ俺は? 俺が気がつかないでなんかやらかした可能性ある?」
「ないな。うん。ない」
「ちょっと考えてみろよ」
「全部覚えてるから、考える必要はねえ」
「……うわあ。愛されてるって思っていいんだよねコレ?」
「うっせークソ天パ」

 罵ってやったのにクソ天パは嬉しそうに俺の髪を撫でてきやがった。

「ん? 頭は平気だな」
「テメーの空っぽな頭に比べればな」
「イヤ中身の話じゃなくて。中身も違うけどね。中身じゃなくて、頭は触っても大丈夫みたいだぜ」
「? そういや、そうだな」

 触られるのが全くダメなわけではなかった。手を繋ぐ(部屋の中だけだぞ!)とか、向かい合って飯食ってるときに脚が当たる、つうかこいつがわざと脚絡ませてくるとか、そういうのは不快感ゼロだ。むしろ嬉し……あああああ。

「体温かなァ。それとも面積とか、圧迫感とか? そういうことかな」

 刀振り回すのに支障が出るっつーのはマズイよなぁ、と銀時は呟いた。
 その翌日、俺はまんまと不覚を取った。見廻り中に見つけた攘夷浪士に、左肩をザックリ斬られた。

「だから言ったでしょう。足手まといなんだって」

 下手したら袈裟懸けにイッてましたぜ、と総悟は残念そうなのを隠しもせず知らせてきた。

「どうしたんでィ一体。なんか原因があるでしょう」
「……思いつかねーんだよほっとけ」
「アンタ当分刀持てねえし、まとまった休み取って一旦忘れたほうがいいですぜ」
「あー……近藤さんにも言われた。治っても休職だとさ、チッ」
「ざまあ。ところで休みの間旦那んとこ行こうとか思ってます?」
「関係ねーだろ! ほっといてくれよおォォオ!?」
「旦那は仕事です。俺が雇いやした」
「は?」
「アンタが腑抜けになっちまったんで、俺の稽古相手に困っててね。旦那に頼みました」
「……ああ、そう」

 面白くない。面白い訳がない。不調なのは認めてもいいが、その間くらい好いた男と過ごす権利はあるはずだ。このガキわざとだ、絶対。

「とはいっても丸一日って訳にゃいかねーんで、見せてやってもいいですぜ。旦那と俺のこゆーい絡み」
「ヘンな言い方すんな!?」
「ヘロいアンタより俺のほうがいいって言わせてみせまさァ」

 憎たらしいガキは栗色の目をキラキラ輝かせて、ニンマリ笑った。



 翌日、本当に銀時が屯所に来た。俺を見てわずかに顔を曇らせたのは、前の日の夜に休職扱いのことを知らせたからだろう。それから、珍しく厳しい顔つきで総悟を見て、本気だろうな、と言った。

「イヤですか? 俺ァ名案だと思うんですがね」
「……まあ、いいわ。さっさとやろうぜ」

 面倒くさがりの銀時が、きっちり防具を借りて全装備したのには驚いた。一方の総悟はいつも通りなにもナシだ。何を考えているのか、総悟の表情からは何も読めない。銀時は、見えないからわからない。
 見慣れた物が見えないだけでこれほど不安になる物だろうか。本当に? 違う気がする。これは、この悪寒は、

 竹刀を手に取った瞬間から、二人の気が高まった。まず、総悟から攻撃。

(なんだ、これ)

 寒い。寒気がする。これは、銀時に触ろうとするときの、あの嫌悪感に似ている。

 銀時は難なく躱し、突きを繰り出す。総悟は防具に関係なく、肩から斬り下げようとする。おかしい。本来突きを得意とするのは総悟で、銀時はその膂力に物言わせて斬り伏せるタイプなのに。
 腕は互角、並の剣士なら剣筋さえ見えないだろう速さで攻防は続く。嫌な汗が俺の背中を流れていく。

 突然、総悟が攻撃一色に染まった。急激な変化について行けなかったのか、銀時は防戦一方になった。
 そして。


 頭の中が真っ白になった。


 総悟は全身で銀時の胸に突きを叩き込んだ。折れる竹刀、総悟の体に吹き飛ばされる銀時。
 総悟が、そこまでするとは想像もしていなかった。銀時の完敗も。予想を遥かに超えていた。

 でも、それだけじゃない。

 視界が暗くなっていき、後はどうなったか、わからない。






「わあ、気絶しちまいやしたぜ」

 沖田くんはのんびりと呟いた。それでもコイツなりに心配はしたんだろう。すぐさま寄っていって、頬をピタピタと優しく叩いている。

「そりゃ、大好きな銀さんが憎たらしいオメーに負けちゃったらショックでしょーが」

 悪質なイタズラはしないのを確認してから、俺は重い防具を外した。こんなんほとんど初めて着けた。今回は相手がアブない沖田くんだったし、結構な危険を冒す訳だから念には念を入れただけだ。それに、面を被ってれば土方に俺の表情を読まれずに済む。

「こういう訳でさァ。ちょっくら何とかしてやってくだせえ。時間は長く掛かっていいんで」
「おいおい。副長がながらく留守じゃ、お宅ら困るだろ。なるべく早く帰すよ」

 沖田の依頼は『土方の不調の原因を探り、復帰を手伝うこと』。
 恋人の不調とはいえ、真選組のことには口を出せないでいた。それを見越した沖田が気を利かせて、依頼と称して俺に預けてくれた訳だ。
 現状を見せて欲しいと要求したら、ちょうどいいからって稽古の相手に指名され、更にここんとこ土方が失敗してる流れを再現しよう(負け役をどっちがやるかで少し揉めたが、依頼主サマには敵わなかった)ということになった。

 土方はすぐに目を覚ましたけど、このままバイクに乗せるのは怖かったから副長部屋で少し休ませた。
 土方は沖田くんの前でも、ガッチリ俺の手を握って震えていた。歩かせるのは危なかったから、沖田くんが肩を貸してるってのに俺の手は離さない。危ないだろ。
 じゃあ頼みましたぜ、と沖田くんはあっさり出て行った。

「調子悪かったのか、今日」

 一応聞いておく。土方は力なく首を横に振った。ジミーくんが冷たい茶と、俺にサービスとかって大福持ってきてくれた。嬉しいけど今は甘味より土方だ。ていうか、ジミーは気づいてないってことか?
 茶を飲ませたら物凄く噎せて、結局体力を消耗させただけだった。

「どうしたの。どっか痛いとか、辛いことあるか?」

 土方は顔を歪めて、のろのろと腕を上げて胸の辺りを掴んで見せた。そして、

「銀時、おまえは……」

 続く言葉を待ったけれど、そのまま土方はじっと俺を見つめた。それで、俺に尋ねてるんだとわかった。

「ちゃんと防具つけてたし、さすがにモロにゃ喰らわねーよ。大丈夫」
「……見せろ」
「?」
「カラダ、見せろ」
「えっ、ここで!?」
「傷になってねえか確認するだけだ」
「いや、でもさぁ」
「見せろッ!」

 目元が赤くなってて、泣きそうなの誤魔化してるってわかった。本当は自分で俺をぶっ飛ばして服なんかさっさと捲りたいけど、出来ないから苦しいんだってことも。
 しゃーない。見せてやったよ。まあ、明日あたり少し痣になるかな。沖田は手加減こそしなかったけど、上手く被害を最小限に留めてくれたらしい。打ち合わせもしたし、要は型を演じたようなものだからな。

 土方は食い入るように俺の胸を覗いて、傷を探した。それから、ガタガタ震える手を伸ばして、何度も躊躇って、指先だけ、そっと俺に触った。

「あったけえ」
「うん」
「銀時、」
「ん?」
「銀時、だよな」
「ええ? そうだよ」
「万事屋、行くのか」
「行くっつか。帰るよ」
「……歩いて行く」
「大丈夫かよ。バイク、ってああ掴まれねえかぁ。じゃ、お前乗ってく?」
「お前と一緒がいい」
「なーに可愛いこと言って、」
「お前が消えたらどこを探せばいいか、俺にはわからない」
「――土方?」






 総悟が突いたのを見たはずなのに、ただ見ていたとわかっているのに、銀時の肉を裂いて骨を砕く感触が手に、体に残って離れない。
 これだ。これが原因だ。刀を抜くといつでも、無意識にこの感触が蘇る。だから斬れない。総悟の言葉を借りれば、腰が引けてしまう。

 だが俺は銀時を斬ったことはない。最初に屋根の上でやり合った時は、肩に傷を負わせたがあんなのは刀が『引っ掛かった』程度に過ぎない。斬った感触などある訳もなく、斬られる、と思ったことしか覚えていない。
 今のとは全然違う。この体の記憶は、確実に息の根を止めた感触だ。そしてそれは、銀時なのだ。全く身に覚えはないし、そもそも現実に銀時は生きているのだからそんなことはあり得ない。でも、俺がこの手で胸を貫き、止めを刺したのは、今ぶらりぶらりと隣を歩く銀時なのだ。

「休む? 飲めそうなら公園寄って、飲み物買ってくるけど」

 俺は首を横に振った。今は胃が何も受け付けそうにない。
 銀時は横にいて、俺を気遣っている。幻ではない。ないと思う。


 それとも俺は狂っていて、俺が世界だと認識しているものはすべて俺の想像の産物で、こんな世界はないのかもしれない。坂田銀時も初めから存在しないし、江戸に真選組もなく、俺は俺ではないのかもしれない。

 ああ、それよりこっちのほうがありそうな話だ。

 俺の知っていた世界はとっくに崩れてなくなり、銀時も、近藤さんも総悟も桂も高杉も誰もいなくて、それに耐えられなくなった俺の精神は一人虚構の世界に逃げ込んでしまったのか。
 きっとそうだ。そして銀時は狂った俺が殺したんだ。それだけはどうしても忘れられなくて、時折思い出してはこうして後悔しているんだ。


 なんだ、そういうことか。


 やっと理解できてホッとした。気が緩んだせいか、涙が止まらない。でも、怪訝そうに振り返る通行人も、隣で慌てる銀時も、俺の空想なんだから恥ずかしくない。



 彼らは、俺の虚構世界の住民なのだから。

 
 

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厭魅と銀さんの闘いシーン観て、こんな妄想してしまいました。



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あきゅろす。
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