豚の帽子亭にて。
可愛いあの子
ここに来て何日か経って色々わかってはきたが、夜はまだ慣れない。
とにかく部屋が少ないのだ。店内で寝ていたが、何せ眠りにくい。ただでさえ疲れるのに、疲れが取れない。それに夜中にたまに声が聞こえて来る、おばけ?いやそんなことはない、と思いたい…
背中がぞくっとして、慌てて寝ようとすると、後ろからぐい、と引き寄せられた。
「バ、バンさん!?離してください!」
「や〜だね〜、おら、寝るぞ。団ちょの気に入ったもんだ、俺が奪う♪」
「はい!?ていうかメリオダスさんのものでもないんですけど!?意味分かんねえ!」
抵抗も虚しく、ひょいと抱き上げられてしまう。この大きさの人間には叶わないと諦める。何食べればこんなに大きくなるんだろう?
部屋に入ると、私の体はベッドに投げつけられた。
「ちょ、痛いんですけど!やめ…」
閉じた目を開けるとそこにはバンさんで。組み敷かれてる、という言い方が正しいのだろうか。突然の出来事に息が詰まる。
「何するか、分かんだろ?アリス」
「い、いやぁぁ!!!」
バンさんの顔が近づいてきて、焦って思わず顎を蹴り上げた。
するとニカーと目を細めて笑う。いや、意味分かんないんですけど!?
「ととととととにかく!ここじゃ寝ないですからね!?」
そう言って部屋を飛び出した。
あの人には話が通じない、と諦めてゴウセルさんの部屋に行く。口数は少なく笑わないが、唯一まともそうな人だと思っている。
「失礼しまーす…」
「待っていたぞ」
部屋に入ると、布団を持ち上げて隣をぽんぽんと叩くゴウセルさん。出て行こうとすると、隣に寝かされた。いや、前言撤回。この人もたいていなんでもアリだ。
「あのー」
「団長はお前を気に入っている。俺には理解出来ない。だからお前を知る。」
「いや、ごめんなさい、戻ります」
「まあ待て。」
そう言うとゴウセルさんが本を読み始めた。夜中に聞こえてきた声はこの人だったのか…!ほっとしながらも、読み聞かせを聞かされるこの状況に、子供に戻った感覚に陥る。バンさんの所よりは安心か…と思いつつ目を閉じる、が、こんな状況では眠れるわけもなく。
「…眠れません!!やっぱりごめんなさい」
結局どうしようも無く店内に戻る。
メリオダスさんの部屋には行きたくないし我慢して寝るしかない、そう思って机に頭を乗せると、いつもの硬い感触ではなくふわっとしたものに包まれる。
「オイラには聞かないのかい?」
「キングさん…!」
「別にオイラの意思じゃ無いんだからね?ただキミが可哀想でいや、なんていうか…アリス!」
優しさが嬉しくて、思わずキングさんに飛びついた。
ーーー…
寝所を探すアリスを見かねて、つい助けてしまった。
なるべく関わりたくは無かったのだけれど、やっぱり机で寒そうに縮こまる姿は可哀想で見ていられない。
神器を差し出すと、キングさーん!と飛びついてきた。
まったく、子供みたいだ。ため息をついて頭をぽん、と叩いてあげる。自分より小さい体で神器にぎゅーっと抱きつく光景がなんだか可愛く思えてくるのは、団長には言えないな。
部屋に戻って、結局キングかよ。と不満そうなバンに寝ろと釘を刺して、アリスの隣で自分も眠りにつく。
翌朝。目が覚めると、首元にひやっとした感覚。寝ぼけながらも体を起こすと、隣ですやすや眠るアリスを見て、少しほっとする。
それにしてもさっきのひやっとしたのはなんだったんだ。そう思って神器に手をつく。
「うわぁ!?アリス!起きろ!よだれで濡れてるじゃないか!」
「うー…」
「なんだあ?朝からうるせぇな」
「バン!聞いてくれよ、オイラの神器にアリスが!」
うるせぇよ、と頭を殴って部屋を出て行くバン。
そんな事も知らずまだ爆睡しているアリスにだんだん腹が立ってくる。
「…キミが悪いんだからね。」
そう言って、アリスの前髪を優しく分けて、指でおデコを叩いてやった。
(いい加減起きなよ。)
(んー…あ、おはようござ、って!ちょっとキングさんなによだれ垂らしてるんですか!!)
(なんでオイラのせいになるんだよ!?)
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