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豚の帽子亭にて。
不幸の幕開け





私は、バイゼルで商人をしている。

幼い容姿からか普段はあまり客に相手にして貰えないが、1年に1度の祭りだけは別だ。

どのお店も張り合う様に客を引き、村中が活気づいている。



「いらっしゃーい!いかがですかー!」



売れないな、と落ち込みながらも元気よく売り出していると、背中からお客さんの声がした。絶対に売らなくてはという意気込みから、満点スマイルで振り向く。

すると、男の子が1人。その言葉を聞いた瞬間青ざめる私。


「お前、そこにあった俺の飯食っただろ。」
「な、何のことですか?」
「ついてるぞ、口に。」


慌てて記憶を巡る。
…そういえば、さっき椅子に座ろうと思ったら上にホカホカのミートパイがあったなぁ。お腹ぺこぺこだったから助かった〜激マズだったけど…あれ、あ、私食べたんだった


逃げるしかない。そう思いくるりと後ろを向いて走り出す。
あ〜ばかばかばか。ちょっとお腹が空いたからと誘惑に負けた自分を恨んだ。
だいぶ走った所で周りを見渡し、切り株に座る。



「…ここまでくれば大丈夫、かな」
「なーにが大丈夫なんだ?」
「え!?はや!もー走れない!」



周りを確認したはずなのに、いつの間にかすぐ後ろにいた金髪少年に焦ってまた走り出したその時。
足の感覚が急に無くなり、宙に浮いていることに気付く。


「がっ、崖ー!!!!!」


ふわりと体が浮かんで、崖に飛び込んでしまった事に気づく。
あ、私死ぬんだ。
咄嗟にそう思った。両親は夜逃げし、お金も無く、何の幸せもない人生だったな、こんな事ならさっきのご飯味わって食べておけばよかった。さよなら人生…

そっと目を閉じると、背中にぽよんとした物が当たり、プゴー!という声とともに建物に墜落した。



「いったたたた…あれ、生きてる」


どうやら、背中にぶつかった何かのお陰で自分への衝撃は免れたようで。ただそこにあったお店の屋根をぶち抜いてしまったらしい。
仰向けのまま目を開けると、私を覗き込む6人、と1匹。
その中にはさっきのご飯の持ち主もいて。



「…これ、俺の店なんだな〜」
「う…あの、すいません、お金はないので謝って許してもらえません?ご飯の事もちゃんと謝るから…」



そういうと、金髪の彼がにししっと笑った。



「いーや、ちゃんと全額弁償してもらわないとな?身体で。」



この日から、私の不幸な日々が始まったのである。




(やっぱり許すってのは…?)
(ねーよ)
(ですよね、はい)

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