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 姉さんはソファーの上、父さんはテーブルの下にある。
 それが少年の日常となったのは、二ヶ月前からだ。


 あれは夏だった。何月何日で何曜日だったかまで覚えているが、思い出したくもない。
 あの日は暑かった。思い出すのは、その程度でいい。
 暑かったが、肉はなかなか腐らなかった。しかし誕生日ケーキは溶けてしまった。
 それから二ヶ月経っても、肉は綺麗なままだ。悪臭を放つこともなく、ただそこにあり続けている。
 その日、蝉は鳴いていただろうか、風はどうであっただろう。そんなことなど、どうでもいい。


 ある夏の夜、真っ赤な絨毯の上に腐らない肉が転がっていた。
 肉の臭いは感じられなかったが、別の臭いがツンと鼻を刺激したのを覚えている。あまり良い匂いではなく、それはただ臭かった。それは嗅覚だけではなく視覚をも犯しかねない、嫌なものであったことは確かだ。
 少年は絨毯に転がる肉を見て、冷静に掃除を始めた。その肉は床に転がっているべきものではないと、彼自身の中にある常識が彼を動かしたのだ。肉を移動させ、絨毯(じゅうたん)と部屋が綺麗になるまで掃除を続けた。
 掃除を終えると、少年は公園へと向かった。大嫌いなブランコに座り、何時間も風を切って揺れた。
 その後帰宅した少年は、一人で夕食を口にした。ハンバーグとライス、それから溶けたケーキが付いた紙を舐めた。他にもなにか口にしたかもしれないが、いちいち覚えてはいない。
 それから風呂に入り、就寝した。


 あれは夏で、少年の名前は慶汰(けいた)という。


 


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