日記ログ
I
※標的295話にて 雲雀独白





あの子が笑うから、僕は何もせずにいた。


それだけ。


胡散臭い転入生たちに、そりなど合いそうもない粛清委員長とやら。
すぐに気を許すなんて、さすが草食動物、危機感がまるで無い。


だから、そうなるんだよ。


おびただしい血の海の中で倒れ伏す君を見たときの、僕の気持ちは理解出来ないだろう。


水野薫といったね、あの如何にも見た目不良といった彼。


『カオルが』


『カオルはさ』


野球部に新しい仲間が出来たんだと、凄い球を投げるヤツなんだと、君があまりに嬉しそうだから、僕は仕方無く許したんだよ。
水野薫が、君の近くに居ることを。
なのに、そら見たことか。君はまんまと裏切られ、流さなくても良い血を流している。


誰にでも気を許すんじゃないって、君が思うほど、世間には優しい人間ばかりじゃないんだよって、あれほど口を酸っぱくして言ったじゃないか。
『でもさヒバリ、根っからのワルなんて、いねーんじゃねえかな』
君のその論理で行けば、君は瀕死の重症を負わされ、君の何より大切にしているお父さんは手術室の前で君の無事を祈らなくてはならず、君の親友にも辛い気持ちを味わわせているけど、『根は本当は良いヤツ』になるのかな。


情に厚いと書いてお人好しと読ませる君だから、きっと彼にも退っ引きならないような理由があって、そんな行動に出てしまったのだと、笑って許すのだろうね――多分。


だけど、誰が許しても僕は決して許さない。


『凄いヤツが入ったんだ』


『アイツがピッチャーやったら、並中も県大会優勝は夢じゃねえよヒバリ!』


『ヒバリ言ってただろ?野球部には、ちびっとだけ期待してるって!』


『アイツが投げて俺が打つ!絶対すげーよ!!無敵だぜ!期待しててくれよな!!』


君が全ての情熱を傾け、何にもまして大切にしてきた野球を踏みにじった水野薫。


山本、君がアイツの話をするのを、僕が快く思っていたとでも?


昼休み、放課後、そんなに多くはない二人の時間を、ぽっと出の不良ルーキー話に花を咲かせる君を、応接室から叩き出してやりたいと思ったこともあったさ。


だけど、君は笑っていたから。


現実叩き出したりしなかったのは、君があんまり楽しそうだったから、嬉しそうだったから。
ねえ、いつも言っているだろう?僕は君のその笑った顔が、何よりも好きなんだって。


悪いけど、なんて思いやしないよ。当然の報いを受けるだけだよ水野薫。


山本武を傷付けた。


それだけで、君は死に値するだろう。


さあ逃げろ。隠れろ。


僕は貴様を最も酷い方法で追い詰め、咬み殺す。


――――――――

雲雀独白2



油断していた訳じゃない、そう思う。彼の反射神経をもってすれば、避けられない事態では無かった・・・かも、しれない。
それがあんな命にかかわる怪我を負ってしまったっていうのは・・・僕としてはあまり喜ばしくはないけど、相手に随分心を開いていたってことなんじゃないかな。
嬉しかったんだろうね。大好きな野球を一緒にやれる新たな仲間が出来たっていうのが。




君たちは知っているかい?
並盛中学の野球部は、万年地区大会止まりなんだよ。しかも緒戦敗退率80%・・・。
去年彼が入部したときの一年生は13人で一応全員野球経験者。だけど余りの弱さに嫌気がさしたらしく・・・ほら、練習態度とか見ていたら案外わかるものだろう?結局、次々地元クラブチームへ移ってしまって、残ったのはたったの6人だった。
三年は殆んどやる気が無く、その三年に無言の圧力を掛けられて二年は身動き取れない状態の中で、それでも山本はじめ一年生は真面目に練習をこなしてきた。
三年に謂れの無い暴力を受けたこともあったらしいけど、彼らは屈せず、黙々と、地道な練習をしていた。
やがて三年が引退して、更に監督が代わってから彼らは生き生き練習するようになった。
それからさ、並中の快進撃が始まったのは。
一年の新人戦ではパッとしない成績だったけど、年を越した春の大会では地区予選を勝ち抜き、都大会初出場を果たした。
夏の大会でも良い成績を修めたのは、まだ記憶に新しいんじゃないかい?ステージで野球部が表彰されるなんて、とにかく初めての快挙だったんだよ。




そこに、あの水野の出現。
君たちがもしも山本だったら?
勿論野球は団体スポーツだから、個々の能力が高いだけでは勝てはしない。
でも、即戦力を考えた場合、水野のあの球はとても魅力的だっただろう。
・・・でも、それにもまして純粋に嬉しかったんだろうね。
自分と同い年の14歳で“野球が好き”という思いを持つ男が、彼自身はこんなになってもまだ自覚していないようだけど、親友沢田綱吉が継承するという、自分と同じ『マフィア』の中にいたのだから。


浅はかだったとは、そりゃ思わなくはないさ。
でも彼を責めたりは出来ない。
勿論嘲笑うなんてのは、もっての他。
ねぇ沢田、事実を知ってしまえば、彼に何を言ってやれる?
君は彼と一緒になって、水野のあがり症とやらを克服する手伝いをした仲なんだろう?
それ以降も、彼が水野の為に色々力になっていたのを、そしてその時の楽しそうな笑顔を、僕より間近で見ていた筈だよね。
・・・獄寺隼人も。


いや、よしんば僕らが『君は裏切られたんだ』と言ってやったところで、『そっか』とただ笑うだけだろう。彼は、そういう子だから。
だけどだからといって彼が傷付いていない筈がない。馬鹿が付くくらいお人好しに思える彼だけど、だからといって痛みをすぐに忘れられる訳がない。
いつだって彼は、例えばどこかの誰かなら泣いて立ち上がれなくなってしまうような出来事があった後でも、何も無かったように笑ってみせるから、彼なら大丈夫と思いがちだけど・・・本当はそうじゃないって、彼の自殺を止めた君なら、もう気付いているだろう?


だからね、僕は水野を許さない。誰が――山本が彼を許しても、僕が絶対許したりしない。
君が止めようが―――そうだね、もし当事者である山本が止めたとしても、僕は水野を咬み殺す手を止めやしないだろう。




ねぇ、でなきゃ、笑顔の下に隠れている山本武が余りにも滑稽で哀しすぎるじゃないか。





おわり


―――――――――――

  『おやすみ』



山本が重症を負ったのは知っている。
自分以外の守護者や、胡散臭いシモンファミリーの連中までが、病院に駆け付けたとも聞いている。
「委員長」
草壁が差し出した数枚の書類に判を押し、学校での風紀委員長としての仕事を終えた。
「ここから僕は単独で動く。委員会の方は草壁、任せていいね」
尋ねるようでいながら、有無を言わさぬ視線を投げ掛ければ、最初からそのつもりでしたでしょう?そう返され、後は何も言わず鍵だけを手渡してその横をすり抜けた。


駆ける廊下に、部活動が終わって既に二時間が経過した今、動く影はない。
例え箝口令が敷かれても、噂はどこからか勝手に洩れ、あっという間に広がり勝手に独り歩きしはじめる恐れがある。
それだけは、絶対に避けたい―――山本の為に。


風紀委員により閉めきられた窓の外に、静かに佇み哀しげに項垂れながら咲く薄紫の紫陽花が、雲雀の視線を感じ取ったか、そっと見上げたような気がして立ち止まった。


そぼふる雨の雫が窓ガラスを伝い落ちて、まるで紫陽花が涙を流しているよう。


そんなところで、たった一人声を殺して泣くのはおやめよ。


雲雀は今も手術室で懸命に闘っている山本を想い、ガラスの向こうの紫陽花を撫でるように窓に指を滑らせる。

ごめんね、誰より早く君の所へ駆け付けてあげられずに、君を、守ってもあげられずに。
病院に行かなくてごめんね、だけど、行って僕に出来ることは、せいぜい唇を噛みしめ、無様に立ち尽くすくらいのものだから。


泣くんじゃないよ、君の体は守れなかった僕だけど、誇りは必ず守ってみせる。
だから今はまだ眠っていて。
ゆっくり、母の胎内で光に導かれるのを待つように。


寂しくないよ、寂しくないよ。


目覚めたら、きっと僕がいる。




涙を拭いて、ゆっくりおやすみ、僕の大切なひと。



――――――――

某BLマンガのドSに触発されて、久々の嫁いぢめ。
これも愛ゆえなんです・・・。




 持ち物検査で勉学に必要の無いものを没収するのは、風紀委員の権利である。
そして没収したものの末路を決めるのも、風紀委員の楽しみ―――もとい、義務である。
「うは〜、まーたこんなに本ばっか取っといて」
部活が終わってから、明かりに吸い寄せられるように応接室の扉をノックした山本武は、向かい合うソファーの間に置かれたテーブルの上を陣取る段ボール箱から、一冊の本を取り上げた。
生徒から没収したものの多くは、大概数日も経たない内に処分されてしまう。だが、書籍だけは違った。
「こ、これってアレだろ?びーえるとかいうの」
表紙と裏表紙を見比べながら、うっすら頬を染めた山本は、いかにも興味津々。
「・・・なに?見たいの?」
雲雀はその段ボールの隣で、積み上げた本を一冊一冊チェックしていた。破れ度や汚れ具合を確かめて、古本屋に売り付け(ネットオークションという手もあるが、学校にしかも中学生が持って来るような本に、レアなものなどあるはずがない)風紀委員の将来の運営資金にするためだ。
「見たい、っつーかさぁ」
なんて言いながら、山本は既にページをパラパラ捲っていた。
「うおっ?」
「へ」
「ひぇぇ?!」
一体何を見て上がる叫びなのだろうか。大きくは無いが、仕事中の自分には多分に耳障りではある。
それにしても、山本の口から『びーえる(BL)』なんて言葉が出て来る方が驚きだ。
小学生の頃から野球一筋、女の子にはモテるけどキスはおろか、お付き合いすらまともにしたことの無い男が、ボーイズラブ・・・所謂男同士の恋愛を表す言葉を理解していたとは。耳年増の黒川辺りから聞き齧ったのだろうか。
ええとつまり、一見したところそうは見えないかもしれないが、意外にも普通の男女の恋愛にすら疎い山本なので、いくら雲雀と恋人関係にあるとはいえ、男同士のこういう世界に造詣が深いとは思いもよらなかったのだ(言葉を知っているだけで造詣が深いとは言えないかもしれないが)。
かくいう雲雀も、多分こうして女子から本の類いを取り上げたりしなければ解らなかっただろう。
とにかくBLにも今は色々あるらしく、昔は美少年と呼ばれる耽美な二人が乳繰りあっているものが普通だったようだが、最近ではガチムチ筋肉質とかオヤジとかリーマンとか髭とか、あとは不細工だとか―――とにかく集まる本の種類も幅広い。つまりそういう趣味を隠しもしない女性徒も増えたということだ。
「ぷふっ!これ、ひばりみてえ!」
何冊かパラ見していた山本が、突然吹き出した。何だろうかと山本の肩越しに覗き見れば。
「相手のこと好きなのに、すんげー意地悪なのこの彼氏!オマケに焼き餅妬きだし、邪魔者と見なせばえげつないくらいこえーし!」
「へえ・・・」
ケタケタ可笑しそうに読んでいるけれど山本武、君はそのえげつなく焼き餅妬きなドSに見初められた唯一の男だっていう自覚
「あ〜あ、こんなにされても好きなのかよ〜、バッカだな〜」
―――無さそうだね。


その本の主人公は、性格は悪くないのに、不細工というだけでクラスの女子に虐げられる少年だ。
何故か学校一のモテ男に好かれ、最初は何でどうしてと戸惑いながらも謎が解けてからは段々惹かれて行くのだが。
その主人公の相手であるモテ男、外面は良いが実はとんでもなく腹黒くドSなのだった。


「・・・僕はここまでしてないと思うけど」
ボソリと呟けば、山本が如何にも不満そうな顔をする。
「ええ?!ひばり自覚無しかよ!すぐ殴るしさ、笑顔で嫌味言ったりするし、俺恥ずかしいからダメっつってんのに所構わずチューしたりするし!」
「殴るのは愛情表現だし、あんなの暴力の内に入らないよ。本気なら咬み殺してる。それに僕は気配に敏感だって言ってるでしょ、誰か居たら判るよ。誰もいないからするの」
「二人っきりになると、すぐくっ付いて来るし!」
「好きな相手に触れていたいって思うのは、ごく当たり前のことだろ?」
「そ、そうだけど・・でも無理矢理したりすんじゃんっ?!そういうの良くねえのな!!」
「あのねえ・・・」
ひとしきり言い合った後、雲雀がそれは大袈裟にため息をついた。腕組みし、ソファーに深く腰をかけたかと思うと足を組み直し心持ちふんぞり返り。
そうして、左側の口端がクッと上向いたと同時に、山本の肩は跳ね上がった。雲雀の後ろに、真っ黒な雲が渦を巻いたのが見えたから。
「大体ねえ、君考えてることが顔に出過ぎなんだよ。判らない?僕は君がして欲しそうだからしてやってるんじゃないか」
「――え」
うっそり笑う雲雀というのは、壮絶に綺麗で恐ろしい。山本の頬が恐怖にひきつる。
「君がキスして欲しそうだからキスするの。無理矢理にでもヤって欲しそうだからするの」
「わーーーーーっ?!そそそんなん思ってないっ!!ひばりの目はおかしいんだよっ!!」
「ホントのことさ、だって君げんにキスされた後もヤられた後も結構満足そうじゃない」
「そ、んなこと、な・・・!」
そう言われて、山本は各々の場面を思い出す。そんな風に雲雀に思わせるような素振りがあったのだろうか?
けれど色恋に関する全てにおいて雲雀が初めてな山本には、どこの何がそうだったのか、さっぱり検討もつかない。
首筋まで真っ赤にしてふるふる首を振るが、一度ドSのツボに入ってしまったら雲雀はもう止まらない。
売られてしまえば喧嘩だろうが下世話ネタだろうが、値切りもせず買ってとことんまで切り刻むのが並盛最強不良委員長雲雀恭弥。―――例えそれが唯一無二の恋人山本武であろうとも。
「いかにも自分は被害者、みたいな顔してるけど、所詮僕は口に出来ない君の望みを叶えてあげているだけなんだよ?」
「ち・・・ちが・・!」
弱々しく、今にも泣き出してしまいそうな顔で首を振る山本に、雲雀はビシッと指をさして。
「いくら鈍い君でもこれで判ったろう?苛めて欲しそうだから苛めてあげるんだよ!僕がドSなら君は真性のマゾ、苛められる程快感を覚えるM!究極のドMなんだよっっ!!!」
「えええーーーーーーっっ?!」
ガーーーーンなんて文字がバックに浮かんでいそうな山本に満足して、雲雀は再び本のチェックを再開する。
山本は真っ赤な顔のまま下唇を噛みながらふるふる雲雀を上目遣いに睨んでいるが、雲雀は痛くも痒くもない。
むしろドS心が刺激され、このBL本の山から一番激しそうなものを選んで実行してやったらどんな顔をするだろうか、なんて思いがムクムク沸き上がるだけだ。


そうだ自分がドSだなんて、山本と付き合う前から自覚していた。誰もが好きな相手に抱く感情――抱き締めたい、優しくしたい、守ってあげたい。
だけどそれとは裏腹に、その清廉な頬を涙で濡らしてやりたいと思う。


山本が悪いのだ。


自分のドS心をこれでもかと駆り立てる、ドMな山本が。





おわり
最後まで人のせいにするSドS(スペシャルドS)な雲雀さんでした。
アイツの○本命読んだら、やっぱり私ドSな雲雀さん好きだわ〜とか・・・ごめんなさいごめんなさい七夕なのにちっとも甘くなくてごめんなさいーーーーっっっ!!!







オマケ


「ここまで言われても待ってるって、やっぱりドMだよね」
最後の一冊をチェックし終えて時計をふり仰げば短針が8になろうとしていた。
その間山本が何をしていたかといえば、本をチェックする雲雀の姿をじっと睨むように眺めていただけ。頬の赤い顔で。
そんな山本を従えて、雲雀は応接室の鍵を閉めた。
いくら日が長くなったとはいえ、夜も8時ともなれば太陽は完全に沈み、住宅街の外灯の上の暗闇に、まばらに星が輝いていた。
「俺、考えてたんだけどさあ」
ぽそり、うつむき山本はエナメルのスポーツバッグを握り締める。
「・・・なに?」
断っておくが、先程例に挙げたマンガの主人公と違い、山本武という人間は外見的な完成度は非常に高い。まだ中学生でありながら177センチの高身長、幼い頃から野球で鍛えた体はしなやかなバネのようであり、野球でなくとも充分な活躍が望めると思われる運動神経が備わっている。
そして爽やかさを全面に押し出した端正なマスクは、カッコいいとも可愛いとも評され、老若男女問わず人気は高い。
だが、それがまた、雲雀のドS心を刺激するのは事実である。
曰く、辱しめ、この清々しい、真夏の清涼剤のような笑顔を歪めさせてみたい、啼かせてみたい――と。
何だかもやもやしはじめた雲雀の前で、きゅ、山本は一度唇を薄く噛んで、それから溶けたみたいに優しく笑った。
何よりも雲雀の大好きな顔で。
「俺ひばりが大好きだから、側にいるだけで嬉しくてさ、だから何されても良いやって気持ちが顔に出ちまうんだな、きっと」
「――――!」
少し照れくさそうに、けれど嬉しそうに首の後ろ辺りをガリガリ掻く山本を、雲雀は真っ白になって凝視した。
なんだそのドM発言は?!何されても構わない?!この僕だから、ナニをされても許せるだって?!


一体全体どこまでドMなんだよ君は―――!!!


「わ?!ひばり?!」
「お馬鹿!」
突然背中を塀に押し付けられ焦った山本の唇を、雲雀は自分のそれで塞いだ。顔の割にパーツの大きな瞳が、これでもかと見開かれる。
「んっ・・ひば・・!?」
「黙ってなよ・・・!」
「・・こんな・・とこでっ・・!」
「・・・う・・るさいっ!」
暴れようとする腕を力ずくで抑える。細い見た目に反して、雲雀の腕はぴくりとも動かなかった。
威圧的な口調とは裏腹に、雲雀の舌も指先も山本を優しく侵食して行く。耳朶の裏を擽るように撫でられて、上擦った声が出てしまった。
「・・・ん、・・ぁ」
小さな子供が居るのか、ささやかな笹飾りが飾られた玄関が見える人っこ1人通らない道路で、柔らかにそよぐ風が作る葉の揺らぎと共に、くちゅりと音が響いて、山本の唇は漸く解放された。酸欠状態だからか、生理的に浮かんだもののせいか、視界が霞む。
好きな相手にされた口付けは自分の気持ちなどお構い無しの無理矢理だったけれど、でもそれだって嬉しさの方が勝っていて、山本は複雑な感情に縛られて真っ赤になったまま指先の力さえ入れることができず、雲雀の肩口辺りに項垂れるように額を落とした。
「君のせいだよ・・君が、僕にならなにされても許すなんて、そんなこと言うから・・」
「・・・ごめ」
「自分の言葉に責任持ちなよね。今日は帰さない」
「・・・あ・・ぅ」
「―――帰さないよ」
責め立てるようでありながら、やっぱり口付けと同じように口調は穏やかで、おまけに熱と甘さまで孕んでいるものだから、恋に関しては初心者であり、かつ次々与えられる感情に溺れるばかりの山本に、抗う術なんて有りはしない。
小さな返事を耳にするや否や、雲雀はなすがままの山本の手をきつく握り締めて歩き始めた。
その雲雀の顔が、かつて無いほど赤かったのは、織姫と彦星だけが知っている。







今度こそ終わり

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