日記ログ
H
※ズレ山のボケっぷりと、委員長の妄想的山本どつきっぷりに耐えられる!という忍耐強い方だけお読み下さい。












「要らないよ」
差し出された弁当に一瞥もくれずに、雲雀はコンビニの袋から取り出したジャムパンにかじりついた。
一体どれだけの砂糖を入れたらこんなになるのだろう。べたべたの甘さに、頭痛がしそうだ。
「何で?ひばり言ってたじゃん?いっつもコンビニのおにぎりとかパンばっかりだから、いい加減飽きたって。遠慮すんなよ俺ちゃんと自分の分もあるから!」
爽やかに笑ってみせる山本に、どうにも殴り付けたい衝動を覚える。
確かにそんなようなことを口にした記憶が無いわけじゃない。だけれど、それは仕方なしに付き合ってやっていた会話の延長線での呟きでしかなかった筈なのに。
雲雀ですら忘れていた、あんな些細な一言を何故山本は聞き逃さないのだろう。
何故頼んでもいないのに、弁当なんて寄越すんだろう。
まさか手作り弁当なんてもので、僕の気を引こうって魂胆か?冗談じゃない、犬や猫じゃあるまいし。
「ほら、前にひばり言ってただろ?ハンバーグ好きだって。だから野菜もタ〜ップリ入れて作ったからな?ひばり野菜の好き嫌い多いから、細かく刻んで食べやすくしたぜ!」


―――って、君は僕の母親か!!


カシャン。
山本の手で捧げ持たれていた弁当箱が、応接室の床に逆さまになって落ちた。
振り払ったのは、雲雀の白く長い指。机を挟んで弁当を差し出していた山本の手を、椅子に掛け、向かい合うどころかソッポ向いたまま跳ね上げた。
グリーンのストライプ柄のナプキンでしっかり結ばれてあったから床にこぼれ出しはしなかったけれど、きっと中身は―――。
だって天と地が引っくり返ってしまったのだし。
(少しはショックを受けただろうか)
雲雀は横目で山本の様子を伺っていた。落胆し、肩を落とした姿がそこにあるはずだった。あれば良いと思っていた。
だが、当の山本はといえば。
「あーあ、も〜ひばりってばよく見ろよ〜」
仕方なさそうに笑いながら、弁当を拾っている。
全然堪えていないどころから、あっち向いて手を振ったら偶然当たった、くらいにしか思っていないようだ。
(・・何でだよ・・・・!)
どうしてだ?手作りなんだろう?少しは手間も暇も掛けたんだろう?それを引っくり返されて、何故怒らない?
要するに僕に対する気持ちなんてそれだけって事なのか?
好きだ何だ言いながら、泣きも喚きもしないってことは、その程度にしか思われてないって事なのか?
「これ中身ずれちまったかな〜。う〜んじゃ、パパッと俺の弁当取りに行って来るわ。同じハンバーグ入ってるし、それで」
淡々とした山本に、雲雀の方が感情の高ぶりを抑えきれず唇を噛みしめる。ズレているのは君の頭だ!何度言ったかも、もう分からない。
所詮そういうことなのだ。
怒ったり泣いたり落ち込んだりしないのは、山本にとって雲雀が、感情を露にする程の相手ではないからだ。
「要らないよ、って言ったよ僕は」
今しも走り出しそうな山本の背中が、苛々する。
“雲雀の為”口に出されたことは無いが、滲み出ているそのオーラを蹴散らしてやりたくなる。そんな風に見せかけて、結局自分が満足したいだけのくせに。そんなに優しい自分をアピールしたいのか?冗談じゃない、そんなのは善意の押し付けでしかない。
なのにいつも振り回してやるつもりで、振り回されているのは自分だという事実に腹が立つ。
どうしてこんな風に、いつも自分ばかりが。
「え?と、だって」
「弁当が食べたいなんて言ってない!作れなんて言ってない!」
「・・うん、そーだけど」
「君は一々押し付けがましいんだよ!勝手に側に来て勝手に世話焼いて」
「ひばり・・」
「僕に構うな!放っておいてくれ!金輪際ここには来るな!!」
言った!言い切った!!
肩でぜえはあ息をする雲雀の前で、山本は微妙な顔をしていた。
ここまで言えば泣くだろうか。いや、男に泣かれたって気色悪いだけだ。
(でも)


少しくらい落ち込んで見せてくれても良いじゃないか。傷付いた顔をしてくれても良いじゃないか。


そうしたら僕だって、少しは。


だって君はいつだって、誰にでも同じ笑顔を見せてばかり。


本当に好きなら、僕にだけ特別な顔を見せてくれるはずじゃないの―――?




「あのなひばり」
神妙な声で山本が呼び掛けてくる。戸惑いがちな表情に、何故かこちらも息を飲んだ。
さあどうする?何て言葉が飛び出して来る?
雲雀の胸が、トクンと小さく跳ねた。
「・・・なに」
きゅ、と一度決意表明みたいに唇を噛むから、こちらもまた身構えてしまう。
随分間が空いたような気がする。らしくもなく喉が乾いていた。
早く、早く聞かせろよ。
僕だけに、誰も見たことの無い君の―――




「怒りっぽいのは、カルシウムが足りないせいだと思うぜ」




応接室の窓ガラスが激しく割れた音が学校中に響き渡り、昼飯時の生徒たちは廊下に飛び出したり、口にしたものを詰まらせたり。
「ひっ、ひばり落ち着けっ!!」
「うるさいうるさい!!君なんか骨折った時に飛び降りてそのまま天国でも何処でも好きな所に行けば良かったんだーーーーーっっ!!」
「ええっ?!ひばり俺が天国に行けるって思ってくれてんの?!や〜ひばりってやっぱイイヤツだなっ!大好きだぜ!」
「日本語を正しく理解しろっ!曲解して何でも良いように受けとるな!!」
「ひばり俺が悪いヤツに騙されないように心配してくれてんのな〜!ありがとなーっ!」
「ちーーーがーーーうーーーっっっ!!!」
町内最強の不良委員長がギュンギュン振り回すトンファーを、右へ左へ避けて走る野球部エース山本武。
毎日のように繰り広げられるこの光景は既に並盛中学の名物となっているのだが、渦中の二人は気付いていない。
「ひばり好きだぜっ!」
「僕は君がだいっ嫌いだっ!!!」
「うんうん、心にも無いこと言ってみたい年頃なのな〜」
「違うって言ってるだろうがーーーっ!!!」
追われて、追い掛けて。そんな二人を生ぬる〜く遠目に見ながら、山本の親友曰く。


「一生やってろ」




知らない間に並盛名物馬鹿ップルと全校生徒に認められてしまったらしい雲雀と山本だが、真の意味での恋人同士になれる日は、まだまだ遠そうである。






おわれ

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